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Clagett, C. (1992). Enrollment management. In M. A. Whiteley, J. D. Porter, & R. H. Fenske(Eds.), The primer for institutional research. Tallahassee, Florida: Association for Institutional Research. pp.12-24.

公開日:2012年9月3日 最終更新日:2013年2月23日

概要

IRを扱った入門書の第2章。エンロールメント・マネジメント(EM)について。EMとは、入学前・在学中・卒業後の全てに働きかける組織的な取り組みのこと。大学の方向性を考える前に、学生のことをよく理解しておく必要がある。その理解のために必要となる情報を紹介。

大学の方向性を考える前に、IRを使って学生のことをよく理解しておく必要がある。その理解のために必要となる情報を紹介。

EMについての研究の歴史を紹介。最初は組織について、その後はEMの取り組みがうまくいくために必要な情報をどう構築するかについて研究が行われた。

EMをうまく進めていくためには[EMの達成度を知るための指標]を調べ、さらに[その指標を使って考えた方針]を考える必要がある。

集めたデータを使ってEMでどういう取り組みをしていくかを考えるときの決まりごとを紹介。

EMの取り組みがうまくいくためには、関係者と情報を共有して、気持ちが通じ合うようになっておくことが大切。気持ちが通じるようになるためのコツを紹介。

読もうと思った理由・感想

IRについて初歩的なことを丁寧に書いている文献を探していました。そんなとき、ちょうど学内の図書館にそれらしい文献が所蔵されていることがわかったので、読み始めることにしました。その中の第2章です。

橋本の注として、補足をたくさん書いています。Enrollment management(EM)は大学の取り組みに幅広く関わるため、いろいろな話が出てきます。そしてアメリカの文献なので、当然のことながらアメリカの大学制度を前提に書かれています。そこで用語などを調べながら読むことになりました。本章の内容をサイトに掲載するにあたって、それらの調べた内容を補足として書いています。補足が多くなってしまったので、話の流れがわかりにくくなっているかもしれません。

EMがうまくいくためには、情報を集めて取り組みを決めるだけではなく、関係者と情報共有をしながら気持ちが通じるようになっておく必要がある、というのは大切な話だと思います。なぜその取り組みが必要なのかを説明し、どう納得してもらうかについて、本章では具体的に書かれていませんが、そこが最も大切な気がします。各大学が自分たちで考えていく必要がありそうです。

詳細

 ○扱う内容
   - エンロールメント・マネジメント(EM)とは
     ・ 入学前・在学中・卒業後の全てに働きかける組織的な取り組みのこと
     ・ 大学をどう選ぶか、在学中に大学に期待するものがあるか、退学せずに継続して学ぶかなどを扱う
   - EMを成功させるためには、よく練られたIRが必要
   - 大学の方向性を考える前に、学生がどのように大学を選び、何を期待し、なぜ退学せずに学び続けるのかなどを理解することが大切
   - その理解のために次の6つの情報を知っているかを確認するとよい
     1. 入試の資料請求数
     2. 志願者数
     3. 入学者数
     4. 継続して在籍する割合
     5. 卒業率
     6. 卒業生の活躍
   1.入試の資料請求数
     ・ 自分の大学は知名度が高いか、高校生にどのように思われているか
     ・ 競合校はどのように思われているか
   2.志願者数
     ・ 志願者数を増やすためにはどうしたらよいか
     ・ どうすれば自分の大学を魅力的に思ってもらえるか
   3.入学者数
     ・ 募集活動は効果的か
     ・ 自分の大学と競合校の違いはどこにあるか
     ・ 高校生は最終的に何を理由にして大学を選んでいるか
   4.継続して在籍する割合
     ・ 継続して大学で学び続ける/退学するの選択に影響を与えているものは何か
       - 経済支援
       - 大学の雰囲気 など
   5.卒業率
     ・ 退学している数が多い層はあるか
     ・ あるとすれば、それはなぜ多くなっているのか
   6.卒業生の活躍
     ・ 卒業生はどれくらい活躍しているか
     ・ 寄付をしてくれる卒業生の特徴はどのようなものか
   - EMを考えるときに大切なこと
     ・ 何人が入学してきたのかだけでは不十分
     ・ 何人が大学になじんで学んでいるのか、活躍する卒業生になるかが大切
   - EM担当者に求められること
     ・ [細かい分析]と[広い視点から見たEM]の両方を結び付けて考えないといけない
     ・ それを実現するためにはthe linear student flow modelが役立つ
       - 入学前の問い合わせから卒業後までを扱うモデル
     ・ 本章はこのモデルをどう作っていくかの紹介

 ○これまでEMがどのように研究されてきたか
   - EMの文献は大きく分けて2種類ある
     1. 組織・取り組みが行われる過程を扱う文献
       - これらの文献によって、ここ10年でEMの考え方と用語が知れ渡ることになった
     2. 取り組みがうまくいくために必要な情報をどう構築するかを扱う文献
   - EMがうまくいくためには様々なことが関わってくるため、初期の文献は組織について書かれることが多かった
     ・ Hosslerの文献で"enrollment management"という用語が定着した
     ・ KemererらはEMの4つのモデルを考えた
       - 管理運営職の支援・中央集権化がどの程度進んでいるかで4つに分類
     ・ 80年代の調査によると、調査に回答した3分の2の大学でEMの取り組みをしているものの、成果があるところは少ない
       - 必要な情報を使って取り組みを考えた大学は少なかった
       - 組織図・部署名を変えただけのところが多かった
   - 近年は学内の情報を把握してEMの取り組みを行うことについて扱った文献が増えている
     ・ IR担当者は文献に書かれていることだけではなく、学内に特有の情報に気を配らないといけない
       - この話については、Glover(1986)が役立つ

 ○EMに関係するデータ
   - EMをうまく行っていくためには2種類の情報が必要
     1. 取り組みがどれだけ達成されているかがわかる指標
       - 指標を表す用語としてperformance monitoring indicators(PMIs)を使う
     2. その指標を使って考えた[EMを達成するための方針]
   - EMは入学前から卒業後までを扱うので、その過程を6つの項目に分けて考える
     1. 高校生が大学について調べる
     2. 願書を出す
     3. 入学する
     4. 退学せずに継続して学ぶ
     5. 卒業する
     6. 卒業後
   - 上記の[EMをうまく行うための2種類の情報]と[6つの過程]を2×6の表にまとめる
     ・ そうすることで、EMの取り組みが各過程でどれだけ達成され、また何をしないといけないかがわかりやすくなる
     ・ EMが扱う範囲は広く、いろいろなことに配慮しないといけないので有益
   - PMIsは、ある時点でEMがどれだけ達成されているかについて数字で表したもの
   - 6つの過程それぞれに、どういうPMIsがあるかの例
     1. 高校生が大学について調べる
       - 大学に問い合わせのメール・電話があった件数
         ・ 橋本の注:1992年の論文なのでmailは手紙ですが、現在は電子メールと読み替えればよいと思います
     2. 願書を出す
       - 志願者の数(=届いた願書の数)
       - 受験者の数
       - 受験者/志願者の割合
       - 入学者の数
       - 入学者/志願者の割合
     3. 入学する
       - フルタイム学生の数
         ・ 橋本の注;フルタイム学生の定義
           - 通常の修業年限で卒業することを前提として就学する学生
         ・ 上記定義の引用元
           - 平成15年文部科学白書第1部第4章第2節1(文部科学省)
       - 学生が1セメスターに履修登録した授業時間の平均
         ・ 橋本の注;アメリカの単位制度がどうなっているか
           - ある授業を履修して、その授業が週5日あるとする
           - その場合、その授業は1学期(約15週間)で5単位となる
             ・ 1学期が約15週間というのは2学期制(セメスター制)
             ・ 4学期制(クォーター制)では1学期が約10週間
           - 大学では卒業するために一般的に120単位が必要
           - よって1学期の間に履修する単位は一般的に15となる
             ・ 120単位÷(2学期×4年)=15単位
         ・ 橋本の注で参考にしたサイト
           - アメリカの単位制度:American Cultural Backgrounds -アメリカ文化の背景-「Credit(履修単位)」(北尾謙治先生、同志社大学)
           - アメリカの2年制・4年制大学:アメリカ高等教育の基礎知識(日米教育委員会)
       - 初めて大学に入学するフルタイム/パートタイムの学生の数
         ・ 橋本の注;パートタイム学生の定義
           - 単位修得のロード(義務)が通常のフルタイムの単位修得ロードの75%未満の高等教育の課程の在学者(アメリカ教育省の国立教育統計センターの統計基準)
         ・ 上記定義の引用元
           - 中央教育審議会大学分科会制度部会関係基礎資料「パートタイム学生について」(高等教育局高等教育企画課)
       - 新しく転入してきた学生の数
       - 通常とは異なる基準で入学した学生の数
         ・ 橋本の注;通常とは異なる基準
           - 人種/民族、経済・家庭状況、特別な能力を持っているなどを考慮
         ・ 橋本の注で参考にしたサイト
           - High SDSU standards led to more 'specials'(Brent Schrotenboerさん、San Diego State University)
           - WHAT IS CONDITIONAL ADMISSION?(Alabama A&M University)
       - 経済的支援を受けた学生の数・支援の種類・金額
       - 地元出身者の占める割合
       - 高校卒業生の占める割合(社会人学生などとの対比)
       - 入学者の人種・民族構成
       - SATの平均・分布
         ・ 橋本の注;SAT
           - 高校間の格差が大きいので、標準テストとして行われる
           - 教育テストサービス(Educational Testing Service: ETS)が実施
         ・ 橋本の注で参考にしたサイト
           - 外国の大学入学者選抜とテストの役割・技術(東北大学高等教育開発推進センター)
       - 入学者の高校時のGPA分布
       - 出身校のランクの分布
       - リメディアル教育が必要な学生の数・割合 など
     4. 退学せずに継続して学ぶ
       - 1年目後期まで在籍し続けている割合
         ・ いろいろな基準で分類した集団ごとに算出
       - 継続して在籍している割合
         ・ ソフモア・ジュニア・シニアの各段階を対象にして算出
           - 橋本の注
             ・ フレッシュマン、ソフモア、ジュニア、シニアは取得した単位による分類(日本のような学年での分類ではない)
             ・ "Retention rate"は各学期末時点での在籍率
               - 分子は学期末の人数
               - 分母は学期始めの人数
             ・ "Persistence rate"は学期が変わる時点での在籍率
               - 分子は授業を1つ以上履修している人数
               - 分母は入学時の人数
           - 橋本の注で参考にしたサイト
             ・ 分類:Glossary of terms used in the schedule "Classification"(The University of Texas at Austin)
             ・ 在籍率:A Brief Guide to Data Definition and Calculation for Enrollment, Instructional Efficiency, and Student Achievement(Los Angeeles Mission College)[PDF]
             ・ 在籍率:Institutional Research Definitions(Riverside Community College District)
     5. 卒業する
       - 卒業した割合
         ・ いろいろな基準で分類したグループごとに算出
     6. 卒業後
       - ある年に卒業した学生のうち大学院に進学した人数、教員免許に合格した人数
       - 教員免許に合格した人数
         ・ 橋本の注
           - 教員免許としましたが、原文は表に"Number passing licensure"と書かれているだけで、本文では言及なしです
         ・ 橋本の注で参考にしたサイト
           - 学校評価と教員のクオリティ向上(八尾坂修先生、奈良教育大学)[PDF]("licensure"で文書内検索)
       - 学んだ内容と関係する仕事に就いた学生の割合
         ・ 卒業後の1年間が分析範囲
       - 大学での経験に満足した学生の割合、寄附をしてくれている人数
   - データの集め方には工夫が必要
     ・ 大学への問い合わせメール・電話の件数をデータとして登録する際にどういう方法を使うか
     ・ 願書の書式に含まれないデータを集めるときにどういう方法を使うかなど
       - 高校での学習習慣、両親の学歴など
   - PMIsを使って状況がわかったら、次はその状況をどうするか対策を考える
   - どのような情報が必要になるかは、何がしたいかによる
   - 対策のために必要な情報を得ようと思っても、学内で使っているシステムだけでは足りないことが多い
   - 集めたデータをうまく管理していくことが大切
     ・ データ更新によって古いファイルが上書きされないようにする
     ・ オフラインのデータを利用できる状態にする
     ・ 橋本の注
       - データ管理とシステムの関係について説明している部分です
       - システムを使っていく中でいろいろと制約があるよ、ということが書かれています
       - ただし1992年の論文なので、現在の感覚で読むと「なぜそれができないの?」と混乱しそうになります
       - 現在との違いを気にしながら、現在でも役に立ちそうなところをまとめています
   - 学内のいろいろな部署で集められたデータを使うときは、それらが同じ内容を扱っているのかについて注意しないといけない
     ・ 各データは対象・目的・方法が必ずしも同じではないため
   - 集めたデータを使いながら、EMでどういう取組をしていくのか考えるときには、4つの決まりごとを意識するとよい
     1.[他の目的のために集められたデータ]ではなく[EMのために集められたデータ]を使う
       - 入学時の学生の特徴
         ・ 学籍番号
         ・ 生年月日
         ・ 性別(gender)
         ・ 人種・民族
         ・ 母語
         ・ 出身高校
         ・ GPA
         ・ 入試の得点
         ・ 前に在籍していた大学
         ・ 履修済み単位のうち認定されるもの
         ・ 経済支援の必要性
         ・ 受賞歴、賞のレベル
         ・ 志望動機
         ・ 大学での目標
         ・ 自宅/下宿
         ・ 通学方法
       - 学期ごとの成長具合
         ・ リメディアル教育を最後まで受けたか
         ・ ある学期に登録した授業(credit hours;履修単位時間)と実際に得た単位
         ・ 成績(academic standing)
           - 橋本の注
             ・ 取得した単位数によって段階的に警告、補助、除籍がある
           - 橋本の注で参考にしたサイト
             ・ 岡山大学学生交換協定校を通してみた米国の大学教育(亀高鉄雄先生、『岡山大学経済学会雑誌』)[PDF]
         ・ 受講するプログラム
         ・ 単位数(cumulative credits attempted and earned at end of term)
           - 橋本の注
             ・ 不合格(F)となった授業を含む/除くを別にして計算
           - 橋本の注で参考にしたサイト
             ・ CUMULATIVE CREDITS/TOTAL CREDITS(The Pennsylvania State University)
         ・ GPA(semester GPA, cumulative GPA)
           - 橋本の注
             ・ [学期ごと]、[これまで履修した全ての授業]で計算
           - 橋本の注で参考にしたサイト
             ・ Calculating Grade Point Average(Duke University)
       - 卒業者・他大学への編入者の追跡
         ・ 卒業した大学・学科、編入する前の大学・学科
         ・ 編入までに得た単位のうち、編入時に認定された/されなかった単位
         ・ 編入先での単位・GPA
         ・ 就職状況
         ・ 就職先と専攻の関係
         ・ 年収
         ・ 勤め先、その所在地
         ・ 同窓会への参加有無
         ・ 寄附の有無
     2. 詳しく調べたグループを追跡できるようにしておく
       - 全学生に付けているIDの他に、特別に調べたいグループ用の番号を用意する
       - 調べたいグループを後から追加するのは大変なので、データを集める前によく考えておくこと
     3. 学生が物事を決める時期のデータを集める
       - 入学時、1年目前期の終わり、卒業直前など
       - 例えば退学率の高い学生が意思を固めるまでの過程を調べることができる
     4. 全学的に広く見渡すのと同時に、特定のグループを詳細に見ることも大切
   - 集めたデータの分析について
     ・ 計算自体は簡単だが、誰、どの期間について分析するかを決めるのは難しい
     ・ 集めたデータを分析してわかったことを、別の分析の切り口に使っていくとよい
     ・ 分析に使える手法の例
       - 回帰分析、因子分析、クラスター分析
       - 橋本の注
         ・ 具体的な計算などは出てきません
         ・ 詳しい説明はなく、簡単に紹介されているだけです
   - 分析でわかったことをどう活かしていくか
     ・ 入学前から卒業後までの動きについて、よく練った分析方法を考えたとしても、それがうまくいくとは限らない
     ・ 関係者と情報を共有して、気持ちが通じ合うようになっておくことが大切
     ・ 気持ちが通じるようになるためのコツを5つ紹介
       1.決定権を持つ人に情報を提供しよう
         ・ その人が知りたいと思っている情報が何なのかを理解することが大切
         ・ 大学の方向性を決める過程にIRを組み入れてもらおう
       2. 決定権を持つ人が情報を欲しいと思ったときに、その情報をすぐ提供できるようにしておこう
         ・ そのためには、どういうときに情報が必要になるのを知っておく必要がある
         ・ 意思決定が行われた後に、いくら分析をしても仕方がない
       3. 分析によって得た情報をわかりやすく説明しよう
         ・ 相手に内容を理解してもらうためには[どんな方法を使ったのか]よりも[何がわかったのか]の方が大切
       4. 説明するときは、何が最も言いたいことなのかを意識しよう
         ・ EMは多くの内容を扱うので、あれもこれも言いたくなるが、それではうまく伝わらない
       5. 説明には「これぞ」という作り込んだ絵を使おう
         ・ 数が多過ぎたり、適当に作ったりした絵では理解されない
         ・ 詳しいデータを示さないといけないときには、なるべくすっきりまとまった見せ方をすること
           - ぱっと見てわかることが大切
     ・ 関係者からは「EMのために何でこんなに苦労をしないといけないのか」という疑問が出てくるはず
       - そういう気持ちになるのは、もっともなこと
       - その気持ちには、説明をして答えていく必要がある
         ・ 大学が何をしようとしているのか
         ・ リーダーシップをどう発揮するか など
     ・ IR担当者だけではEMはうまくいかない
       - ただし、EMがうまくいくためには、IR担当者が間違いなく重要な役割を果たすことになる

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