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廣田未来(2011).お茶の水女子大学附属図書館の学生支援:ラーニング・コモンズとLiSAプログラム 情報の科学と技術,61(12),489-494.

公開日:2012年12月14日 最終更新日:2013年12月6日

概要

お茶の水女子大学附属図書館のラーニングコモンズの取り組みを紹介。ラーニング・アドバイザー(大学院生)、誰でも自由に座れるカフェスペース、ミニピアノコンサートなどの定期的なイベントの開催、就職支援・留学相談などいろいろなサービスの提供、学生スタッフと図書館員の協働。

読もうと思った理由・感想

(以下で書いている「読もうと思った理由」は本サイト内の畠山(2011)で書いている内容と同じです。「感想」は廣田(2011)用に書いています。)

学生の学習を支援している取り組みを知りたい、またその支援体制の具体的な計画・運営の内容を知りたいと思い、読み始めました。

なぜそのようなことを知りたいと思ったのかについては、以下の通り、2つのきっかけがあります。

1つ目は学内で学生さんの学習意欲がより高まってくるのではないかという予想です。京都光華女子大学では2014年度に学部・学科を再編し、専門職の養成を充実させます。具体的には、健康科学部で看護師、助産師、保健師、管理栄養士、健康運動実践指導者、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士、言語聴覚士の9つの専門職の養成が可能になります[1]。資格取得を目指す学生さんが増えることで学び方が変わってくるでしょうし、その変化の1つとして学生さんの自習意欲が今よりさらに高まるのではないかと考えました。実際に保健分野は比較的学ぶ時間が多いというデータ[2,3]があります。
[1]京都光華女子大学「2014年4月京都光華の学びが進化します」
[2]文部科学省「1週間の授業に関する学修時間について(分野別)」[PDF]
[3]山田礼子先生(同志社大学)「【大学教育部会の審議まとめをめぐって】学修時間の確保に向けてどうすべきか アクティブ・ラーニング導入の効果」

2つ目の話として、自分から学ぶ姿勢の大切さに関心が向けられているということがあります(例えば[4])。京都光華女子大学でも学生さんの主体的な学びの支援を計画し、文部科学省の私立大学教育研究活性化設備整備事業(平成24年度)で「アクティブラーニング促進と主体的な学びを支援する学習環境整備」という取り組みが採択されました。これが1つのきっかけになって、学内でも自ら学ぶことについて支援していこうという動きが今後さらに活発になっていくのではないかと思います。
[4]中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」

以上のようなことがきっかけで、学習支援の事例、計画・運用の内容に興味を持ちました。

この文献を読んで参考になりそうだと思ったことが4つあります。1.人の動きをしっかり意識しているところ、2.入り口すぐという図書館を印象付ける場所にカフェスペースを作り雰囲気をよくしているところ、3.他部署とうまく連携しているところ、4.定期的なイベントを開催することで図書館に常に注目してもらうところです。4.のイベントについては「ピアノのある図書館」として話題を集めているようです[5]。
お茶の水女子大学附属図書館「「第14回図書館総合展/学術情報オープンサミット2012」のポスターセッションに参加しました。」

情報技術が発展し、図書館に行かなくても学術情報が手に入るようになったことで、図書館の機能は「資料の提供」から「学びの場」に移ってきていると言われます[6]。学生さんの学ぶ意欲を支援していくために、図書館の「学びの場」としての機能を活かしていくことが重要になりそうです。
[6]加藤信哉・小山憲司(編訳)(2012).ラーニング・コモンズ-大学図書館の新しいかたち- 勁草書房 [内容

詳細

※原文がPDFで公開されています[PDF]。
   - 背景
     ・ 「知識の伝達」から「知識の創出・自主的学習」が重視されるようになった
       - 2008年の中央教育審議会の答申の結果
     ・ それにより図書館の学習・教育支援機能が重視されるようになった
   - お茶の水女子大学附属図書館の取り組みを紹介
     ・ 小規模(総床面積4,825平米の2階建て)
     ・ 大学の中で孤立しない図書館を目指した
       - ラーニング・コモンズ的空間を創った
       - 図書館を活性化させるために学生と図書館職員が共同で活動をする
   - 図書館1階にラーニングコモンズを新設した
     ・ 構造壁以外を取り除いて利用者用スペースにした(以前は教員用研究個室などで細かく仕切られていた)
     ・ 無線LANを完備した
     ・ 学生用PC50台、電源・LAN口付のデスク8席、スキャナー機能付きプリンター1台を配置した
     ・ ラーニング・アドバイザー(大学院生)が午後のみ常駐する体制でスタートした
       - PCの利用、学習面をサポート
     ・ ラーニング・コモンズの隣にはガラス窓のある壁で仕切った事務室を配置
       - キャリアカフェ(後述)とも隣接している
       - 図書館内で行われるイベントをサポートしやすい
     ・ PCソフトのマニュアル、論文の書き方、アカデミックプレゼンテーション、辞書などの書籍を常備
   - 図書館入口正面にキャリアカフェを新設した
     ・ 2007年度の現代GP
     ・ 当初の設備:無線LAN、雲型テーブル×5、椅子×25、1人掛けソファ×4、3人掛けソファ×1、ドリンクサーバー×1
     ・ 誰でも自由に座れるオープンなスペース
     ・ 学生が企画する講演会、授業も行える
     ・ レイアウトの変更が簡単に行える
       - 100人規模のイベント会場にもなる
     ・ 改修前と比べて、利用者スペース80%増、事務スペース27%減
   - 環境の整備を進めた
     ・ オープンカフェの利用者が多かったのでテーブル、椅子、ホワイトボードを追加した
     ・ 全館無線LAN対応にした
     ・ 館内用貸し出しノートPC×40を用意した
       - 自動貸出ロッカーでセルフで行う
     ・ キャリアカフェをくつろぎの空間にするため、軽めの図書を揃えたコーナーを設置した
       - 貸出手続きなしで借りられる(マナーを信頼)
       - 一夜貸しも行う
       - 学生による選書、ポップを始めた(学生からの提案)
   - キャリアカフェに隣接するラウンジではミニピアノコンサートを定期で行っている
     ・ 音楽コースとの共催
     ・ 人前での演奏経験になるため音楽コースの学生・教員に好評
     ・ 立ち見が出るほどの人気
     ・ 事前告知をして昼休みに行う
       - 意外と苦情なく行われている
   - キャリア支援サービスを行っている
     ・ 就職・進路に役立つイベント
     ・ 週2回の相談会
       - エントリーシートの添削、面談指導が最も多かった
     ・ 就職が決まった学生が就活サポーターとして後輩にアドバイス
     ・ OG交流会、企業説明会、自己分析体験講座、就活生向け情報術講座などのイベント・ワークショップを開催
     ・ グローバル教育センターが出張留学相談を定期的に開催
   - 日常的に学生が集まる場を提供することで効果的な学生支援が可能になっている
     ・ 入場者数も増加
   - LiSA(Library Student Assistant)
     ・ 学習支援(幅広い資料に触れる)とキャリア形成支援(図書館業務の経験)を期待して始めた
     ・ 前期、後期の単位で実施
     ・ 図書館があらかじめ提示する業務を学生が自ら選択
     ・ 期間中に約50時間の業務に携わるように各自計画を立てる
     ・ グループウェアソフトでチーム全員が情報共有する
     ・ 図書館スタッフ(定員職員9名、非常勤職員8名)で多数のLiSAを受入れられるのはチーム全体でLiSAに対応しているため
     ・ 学生が業務を行うときは、仕事の意味、手順を理解できるように職員が指導助言をする
     ・ マニュアルを整備し、講習会を開催する
     ・ LiSAは期間終了後に報告書を提出する
       - 職員全員が目を通す
     ・ 学長と図書館長による参加証明書を交付する
     ・ 奨励金を支払っている(業務への責任を持ってもらう、学生生活への支援)
   - LiSAによる感想
     ・ 図書館の資料・サービスへの理解が深まった
     ・ 働くこと、仕事がしやすい組織を作るリーダー像などの具体的イメージが持てるようになった
   - 決まったリーダーがいないので、ミーティングや企画ごとに違う学生がリーダーになる
   - 図書館としてLiSAの設計・運営で工夫していること
     ・ 学生が教職員と接する機会を増やす
     ・ 学生間で協力して行う学習を支援する
     ・ 学生の主体的な学習を支援する
     ・ 学習の進み具合をふりかえらせる
     ・ 学習に要する時間を大切にさせる
     ・ 学生に高い期待を寄せる
     ・ 学生の多様性を尊重する

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