ホーム → IRなどについての文献メモ → Middaugh, M. F. (1992). Persistence.
公開日:2012年8月12日 最終更新日:2013年2月23日
IRを扱った入門書の第1章。重要な分析対象である在籍率(大学を辞めずに継続して在籍し続ける率)・退学率について扱っている。Cohort survival analysisを紹介。半期ごとに継続して在籍している学生の数をカウントすることで、入学~卒業までの学生数の傾向を理解できる。また、同じカウントを年度ごとに行うことで、経年比較ができ、大学がどのような状況にあるのかを理解できる。分析対象の学生の定義を分析期間内に変えてはいけない。学生数の動きをモデル化することで、大学の計画に役立てることができる。
IRについて初歩的なことを丁寧に書いている文献を探していました。そんなとき、ちょうど学内の図書館にそれらしい文献が所蔵されていることがわかったので、読み始めることにしました。
期待通り、基本的な知識・分析方法が紹介されていました。1992年の文献なので、現在の視点からすると目新しいことが書かれているわけではありません。ただ、基本的な内容というのは今でも役に立ちます。IRについて基本的なことを理解している、と言えるためには、本章に書かれていることを人に説明できるくらいになっていないといけませんね。
○扱う内容
- アメリカでは一般的に、高校を卒業して4年間で大学を卒業すると考えられている
・ しかし実際にはそのような学生は15%しかいない
- 自分の大学の状況を知ることが大切
・ [退学せずに継続して在籍し続ける学生(persistence)]と[退学する学生(attrition)]がどれくらいの割合なのか
- それを知るためにわかっていないといけないこと
・ 卒業者数/入学者数の割合
・ 卒業までに何年かかるか
・ どの時点で退学するか(1年目の前期など)
・ 在籍し続ける・退学する理由は何か
- それらの数字を調べるときは、同じ間隔で比較することが大切
・ 例:半期ごと(1年目前期、後期、2年目前期、後期・・・)
・ 間隔が一定でないと正しい比較はできない
- Cohort survival analysisの紹介
・ 2種類の数字を並べた表
・ A:半期ごとの在籍者数をカウント
- ある年に入学してきた学生がどれだけ卒業するか・退学するかがわかる
・ B:同じ数字を年度ごとにカウント
- BはAの傾向を経年比較できる
○分析手法の背景
- 1年目は大切
・ 1年次と2年次の間に「退学する」学生が最も多い
・ 「退学」としているところはattrition;学生の数が減るということなので転学なども含む
- [個々の学生が求めるもの]と[大学が提供するもの]がうまく合っているかが大切
・ 退学するか/卒業まで学び続けるかの分かれ目
○分析で使うデータの扱い方
- Cohort survival analysisの方法を紹介
・ 退学せずに在籍し続ける学生、退学する学生の割合を調べる
・ それによって退学せずに卒業まで学ぶ学生の割合もわかる
・ 経年でも調べる
- 各年度初めの時点で比較することが多い
- 分析対象の定義をしっかりすることが大切
・ 分析の期間内は対象となるメンバーが一定である必要がある
・ 例:編入生をカウントするか
- 1年生として入学した学生が前期で1人退学し、別の編入生が前期に1人入ってくる場合
- 学生数としては変化なしということになるが、分析目的によっては、これではまずい
- 在籍率・退学率は分析期間内で上下することがある
・ とくに社会人学生など、従来とは異なる(nontraditional)学生が多い大学でその傾向がある
- 分析対象の定義は大学の状況によって決めればよい
・ ただし分析期間内に定義を変えないことが大切
- Cohort survival analysisの表を使って、より詳細な分析をすることができる
・ 卒業するのに何年かかるかを調べるときに、性別・住んでいるところ・専攻などの観点から分析をしてみる
- Cohort survival analysisを使った分析の例
・ 大学を卒業するまでにかかる年数を把握する
- 一般的には大学を4年でするものと考えられている
- しかし実際は違うことが多い
- 自分の大学の実態がどうなっているかがわかる
- Cohort survival analysisで調べた情報は大学が方針を決めるときや取り組みの計画を立てるときなどに役立つ
○分析方法
- 学生が入学してから卒業するまでの流れについてのモデルを作ることができる
・ 大学に在籍し続ける人数、退学する人数を調べて作る
・ そのモデルを使って、大学の収支予測、配置するスタッフの構成などを考えることができる
- Cohort survival analysisによって、大学がどういう状況になっているのかはわかる
・ ただし、なぜそうなっているのかは見えてこない
・ そこで、原因を別に考えないといけない
・ 2つの方法がある
- 1つは退学しようとしている学生に聞いてみるという方法
- もう1つは学生の満足度を調査するという方法
- 退学しようとしている学生に聞いてみるという方法
・ [学生のニーズ]と[大学が提供していること]がどのくらいマッチしていないのかを調べる
・ 退学理由が個人的なもの(病気、経済、家族など)なのかを調べる
・ 加えて、大学に戻ってくる気はあるかを調べる
・ この1つ目の方法は有益なことがわかるが、回答率がとても低いという問題がある
- がんばっても20~35%がいいところ
・ 調査の信頼性を高くするためにはサンプル数を大きくする必要がある
- そこで2つ目の方法、満足度調査を使う
・ この方法のいいところは2つ
- 回答内容が率直なこと
- 不満に思ってから回答するまでに時間が経っていないこと
- 満足度調査を使った分析の例
・ 後期に満足度調査を行う
・ 次の前期に在籍している/していないで学生を分ける
・ それぞれの集団で各調査項目の回答傾向に違いがないかを調べる
・ 違いがあれば、それが退学に関係している可能性がある
- 退学理由の詳しい情報が集まれば、大学が計画を立てるときに使うことができる
・ 大学がどういう取り組みをするか、学生サービスをどうしていくかなど
・ [学生のニーズ]と[大学が提供していること]がマッチしているかどうかが、退学率に大きく影響しているという研究がある
○分析結果の使い方
- 得た情報をどう使っていくかについて、4つの観点を紹介
- 1つ目
・ 学運営に関わる上位の人々(学部長、部長など)と情報を共有することが大切
・ 得た情報を使って考えた取り組みと大学の方向性が一致しているかを聞いてみるとよい
- 2つ目
・ 他大学のデータと比較することができるthe Student Right to Know Actを使う
・ 他大学と比較することで、学内の議論を活性化させることができる
- データを集めるときにはSRKAの基準に合わせる必要がある
- 3つ目
・ 10年後に学生数がどうなっているかを考えるときに、学生の流れのモデルを使う
- モデル:どれくらいの学生が在籍し続け、または退学していくのか
・ そのモデルは募集する学生数、収支計画を考えるときに役立つ
・ 大学が計画を立てるときのプロセスに組み込んでもらうことが大切
- 4つ目
・ 満足度向上を目指して何に力を入れていくかを検討することは大切
・ その検討がうまくいくように分析で得られた情報を提供する
・ 取り組みを考えるときには、[学生のニーズ]と[大学が提供すること]がマッチするかを意識することが大切
・ そのように考えていくことで、満足して卒業していく学生数が増える