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岡田聡志(2009).私立大学におけるInstitutional Researchの実態と意識-大学類型との関連性 大学教育学会誌,31(2),116-122.

公開日:2014年7月23日 最終更新日:2014年9月24日

概要

IRの導入にあたっては、各大学が持つ従来の機能との連続性の中でIRの機能を捉えることが大切。アメリカでは大学の規模によってIRの導入の仕方が違った。具体的には、小規模大学ではIRを担当する組織を設定しない傾向、中規模大学ではIRが集権化する傾向、大規模大学ではIRが学内で分散する傾向があった。

それらを踏まえ、日本の大学を対象にして、類型ごとに①IR機能を担当する組織がどうなっているか、②IR機能を今後どのくらい重視しているかを調べた。

その結果、①については、郊外型中規模大学では事務局が果たす役割が比較的大きく、新興型小規模大学では「担当箇所なし」あるいは「臨時の組織で担当」が一定の割合となっていた。②については、都市型大規模大学・郊外型中規模大学では、今後の機能強化に対して積極的な態度を示し、新興型小規模大学では今後の機能強化に対して、他の類型と比較して消極的な態度を示していた。

読もうと思った理由・感想

大学の規模によって、IR担当部署の有無、役割などがどうなっているかを知りたいと思ったからです。IR関連の研修会などに参加すると、大規模大学の方から「IRを実施しているものの小回りがききにくい」というお話を聞くことがあります(学部ごとに事務局があってデータが分散しているため、データ収集が大変など)。小回りがきくという点については、規模が小さい大学の方が進めやすいのではないかと感じています。そこで、大学の規模ごとにIR担当部署の役割などを調べた文献を読んでみることにしました。

新興型小規模大学では、今後の機能強化に対して、他の類型と比較して消極的な態度を示しているということが書かれていました。ただ、網羅的にデータを集めようとせずに大学としての重点課題に即してデータを収集する[1]、大規模なデータベースを前提とせずに必要最小限な範囲でIRを行う[2]という進め方であれば、強化できることはいろいろあると思います。小回りがきくという長所からIRを考えてみると、具体的に実行できることが見えてくるかもしれません。また、小規模大学は中・大規模大学と比べて、1人1人の学生さんの顔と名前、それぞれの事情などを把握できていると思います。そのような中、何のためにデータを集めて情報を抽出しようとしているのかを考えることも大切になってくると思います。

詳細

 ○問題設定
   - 大学を類型化し、各類型とIR機能の関連性を検討する
     ・ 特性・諸機能に関する指標などを用いる
   - 「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」(中央教育審議会大学分科会制度・教育部会、2008年)
     ・ インスティチューショナル・リサーチャーについて言及している
   - 「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(中央教育審議会、2008年)
     ・ 「大学の諸活動に関する調査データを収集・分析し,経営を支援する職員」の重要性について記述している
   - 各大学が持つ従来の機能との連続性の中でIRの機能を捉えることは、IRの導入に対して重要
   - アメリカにおけるIR導入の歴史
     ・ 1950年代
       - IRの拡張期
       - 規模によって傾向が違う(Sprague, 1959; Stickler, 1959)
         ・ 中規模大学ではIRが集権化
         ・ 大規模大学ではIRが学内で分散
         ・ 小規模大学ではIRを担当する組織を設定しない傾向
       - そのことは、IRの役割・その後の展開が大学特性と関連することを示唆する

 ○分析枠組み
   - 『機能改善のための学内の情報収集・検討の現状に対する調査』
     ・ 2008年度に実施
     ・ 私立大学590校が対象
     ・ 回収率は28.8%(170校)
     ・ 調査内容
       - IRに関する20の機能に関して尋ねている
         ・ 担当箇所
         ・ 今後その機能を重視する度合い
       - IR担当部局の設置有無
     ・ 回答結果(沖,2009)の概要
       - 各部局へのデータ提供・データ分析・分析に基づく改革案の作成などは半数ほど
       - 設置しているのは1割程度
     ・ 本稿ではIRに関する20の機能に関しての担当箇所と、その機能を重視する度合いについて分析する
   - IR機能の担当箇所
     ・ 20の機能はアメリカの先行研究を参考にして作成されている
       - Delaney(1997), Kinght et al.(1997), Volkwein(1990)など
     ・ 回答の選択肢
       - 大学の常設の組織体等
       - 大学の臨時の組織体等
       - 法人の常設の組織体等
       - 法人の臨時の組織体等
       - 事務部局
       - 担当箇所が無い
     ・ 結果から3つのカテゴリーを設定した
       - 学生・教育関連機能
       - 経営機能強化
       - 中長期計画
     ・ 各カテゴリーごとに各大学類型でどのような特徴があるかを分析する
   - IR機能を今後重視する度合い
     ・ 因子分析によって5因子を抽出した
       <因子Ⅰ:学生動向>
       - 卒業生の追跡調査
       - 同窓会の機能強化に関する検討
       - 教職員のワークライフバランスに関する検討
       - 機関全体の統計レポートの作成
       - 学生生活調査の実施
       - 学生の退学の動向についての検討
       - 学生への財政的支援の検討
       <因子Ⅱ:教育改善>
       - 学生の教育効果の検証
       - 学生による授業評価の教育改善への活用
       - FDの改善に関する情報収集
       - SDの改善に関する情報収集
       - 学生のキャリア開発の検証
       <因子Ⅲ:プランニング>
       - 収入・支出に関する中長期計画の検討
       - 中長期目標・計画の策定に関する情報収集
       - データに基づいた他大学との比較
       <因子Ⅳ:外部資金>
       - 教育GP申請の準備・検討
       - 外部研究資金獲得に関する情報収集
       - 産学連携に関する情報収集
       <因子Ⅴ:評価対応>
       - 認証評価の準備
       - 自己点検・評価報告書の作成
     ・ これらの因子と、各大学の類型の関係を分析する
   - 私立大学の類型化
     ・ 私立大学に特化した類型は金子(1996)を除き少ない
       - 金子(1996)は私立大学を設置年代によって3世代に分け、さらに第1世代を規模などの大学特性から3つに細分化している
       - 国立大学を対象にした先行研究はいくつか確認できる
         ・ 天野(1984)、吉田(2001)、光田(2004)、小林(2002)、島(2006)
           - 大学の歴史的経緯や専門分野の構成、博士課程の設置有無、教育・研究機能の指標などを利用して分類している
         ・ 村澤(2007)
           - 大学・学部・学科を対象に、決定木手法によって分類している
     ・ 本稿では探索的な手法であるクラスター分析により複数の指標を用いて大学類型を作成する
       - 大学を1つの観点で捉えるのではなく、より包括的で具体的なイメージを伴った類型を構築することが可能
       - 先行研究では量的変数のみを投入して類型化しているが、本稿では質的変数も扱う
         ・ 本稿で類型化に使用する変数の概要
           - 第1~4世代
             ・ 第1世代:1960年以前
             ・ 第2世代:1960~1974年
             ・ 第3世代:1975~1991年
             ・ 第4世代:1992年以降
           - 政令都市1、政令都市2、都市郊外、地方
             ・ 政令都市1:大学の本部所在地が東京23区・横浜市・大阪市・名古屋市
             ・ 政令都市2:大学の本部所在地が上記以外の政令都市
             ・ 都市郊外:上記以外で、大学の本部所在地が東京・神奈川・大阪・愛知・千葉・埼玉・京都・兵庫で政令指定都市以外
             ・ 地方:上記以外
           - 文系設置、理系設置、医系設置
           - 専門職大学院の有無
           - 学部数
           - 研究科数
           - 学部学生数
           - 大学院生数
           - 専任教員数
           - 入学難易度
             ・ 208入試難易度ランキング(『2009年版大学ランキング』、朝日新聞社)の各学部の単純平均
           - 科研費採択件数
           - 科研費配分額
           - 専任教員1人当たり科研費採択件数
           - 専任教員1人当たり科研費配分額
           - 大学院生比率
           - 学生1人あたり教員数

 ○分析結果
   - 各類型のプロファイル
     ・ 類型1:都市型大規模大学
       - 第1世代が最も多い、大半が第2世代までに含まれる
       - ほとんどが政令都市1
       - 理系・医系を設置している割合が比較的高い
       - 研究科数・学生数多い
       - 研究に関する指標がいずれも高い
     ・ 類型2:郊外型中規模大学
       - 第1・2世代が大半を占める(類型1と類似)
       - 主に都市郊外に設置されている
       - 学部数・学生数が類型1に次いで多い
       - 研究に関する指標は中間的な値
     ・ 類型3:新興型小規模大学
       - 第4世代は全てこの類型
         ・ 1992以降に設置された大学が大半を占める
       - 地域には一貫した傾向は見られない
       - 学部数・学生数が最も少ない
     ・ 類型4:地方型小規模大学
       - 第2・3世代
         ・ 大学の大拡張期から1991年までに設置された多く含まれる
       - 全て地方に設置されている
       - 学部数・学生数は類型3に次いで少ない
       - 理系を専門分野として有している割合が類型1に次いで多い
     ・ 上記類型は私立大学の半数が学生数2,000人以下の比較的小規模の大学で構成されているという状況
       - 金子(1996)の分類との齟齬はない
   - 各類型とIR機能の担当箇所との関係
     ・ 類型2(郊外型中規模大学)
       - 事務局が果たす役割が比較的大きい
     ・ 類型3(新興型小規模大学)
       - 「担当箇所なし」あるいは「臨時の組織で担当」が一定の割合である
     ・ 各IR機能は類型間で一定の差異がありつつも、機能ごとに別々の組織・部局・人材によって担われる傾向がある
   - 各類型とIR機能の今後重視する度合い(上記5因子)との関係
     ・ 類型1(都市型大規模大学)・類型2(郊外型中規模大学)
       - 今後の機能強化に対して積極的な態度を示している
     ・ 類型3(新興型小規模大学)
       - 今後の機能強化に対して、他の類型と比較して消極的な態度を示している

 ○考察
   - 類型2(郊外型中規模大学)
     ・ IR機能の担当箇所
       - 事務部局が果たす役割が大きい
     ・ 今後の機能強化
       - 積極的な態度を示している
       - 大学職員が中心となる形で比較的迅速にIR機能が集約される可能性が示唆される
     ・ 類型3(新興型小規模大学)・ 類型4(地方型小規模大学)
       - 今後の機能強化
         ・ 否定的な態度を示している
       - 大きな負担を伴わずに、その機能と役割を果たすことが可能な枠組みが必要
         ・ 利用可能な経営資源が限られている
       - 今回の分析結果からは、その意識が何によって規定されているかは言及できない
         ・ ただし1950年代後半のアメリカのIR拡張期の状況と照らし合わせると、同様の展開が起こる可能性が示唆される
       - 小規模大学におけるIRの可能性を模索する場合には、何らかの枠組みついて検討している必要がある
         ・ 人材および大学間ネットワーク、あるいは中間団体の役割やその活用など

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