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高野篤子(2012).アメリカ大学管理運営職の養成 東信堂

公開日:2012年8月1日 最終更新日:2013年2月23日

概要

日本では近年大学職員の専門職化が求められている → アメリカでは大学管理運営職の養成が進んでいるとされ、参考にされることが多い → しかしその実態はよくわかっていない → そこで過去から現在までの文献、インターネット上の情報などで調査 → その結果、日本でよく言われていることとは違い、アメリカでの管理運営職養成の高等教育プログラムは、特定の職種に向けた狭い専門性を身につけさせるものではないことがわかった。

読もうと思った理由・感想

IRは大学を良くしていくために役立つぞ、アメリカのIR担当職員は専門的で進んでいるぞ、という話を見聞きすることが多いです。本書が扱うのはIRだけではありませんが、実際のところ、アメリカの大学職員の専門職化がどうなっているのかが知りたいと思い、読み始めました。

日本で語られる「アメリカの大学職員の専門職化」は実態と違う、というのは新鮮でした。

用語の話で、日本の大学で「職員」というと一般には教員ではない人を表すと思いますが、本書でアメリカの「職員」の話をするときは教員を含めて大学で働く人を表すことがあるので、誰のことを言っているのかを気にして読む必要があります。エグゼクティブ(学長・副学長・学部長など)は「職員」。日本とアメリカで大学の運営・組織が異なるために「職員」の定義は違うものになります。その辺り、筆者の方はどのように言い表すかで苦労されたのではないかと思います。

詳細

 ○第1章
   - 日本の大学職員の専門化が求められている
   - 専門化を考えるときはアメリカが参考にされる
   - ではアメリカの大学職員の専門化はどのような状況か
   - 教職員の構成を見る
   - 日本とアメリカで構成は似ている
     ・ 教員5割
     ・ 事務職員2割
     ・ その他3割

 ○第2章
   - 管理運営職に求められる能力について
   - 上級(学長・副学長・学部長・部長など)と中級に分けて考える
   - 上級
     ・ 幅広い領域のマネジメント能力
     ・ 学位、職務経験年数は明示なし
   - 中級
     ・ 基本的に学士号以上の学位+数年の職務経験

 ○第3章
   - 管理運営職のキャリアパスと大学院課程の関係について
   - 課程を教学と非教学に分けて考える
   - 両者はキャリアパスが違う
   - 教学
     ・ 教員が多い
     ・ 管理運営のスキル・リーダーシップを培うのではなく一般の大学院課程と同じ
   - 非教学
     ・ 上級の管理運営職に就くためのスキルアップや昇進の手段

 ○第4章
   - 高等教育プログラムがどういう歴史を辿ってきたかについて
   - 1893年にクラーク大で最初の科目
   - 管理運営に携わる教員が自分の専門分野を中心として発展させてきた
   - その後、散発的な提供 → 少しずつ増える → 現在まで増え続けている
   - 増えている理由
     ・ 高等教育機関、多様な学生への支援に携わる職員の養成が必要になったため
   - 博士・修士ともに専門職養成を目的としているので職業学位が授与される
   - ただし研究学位を授与するプログラムもある。

 ○第5章
   - 修士課程の教育プログラムについて
   - 職業学位(教育学)と研究学位(文学、理学)がある
   - 職務内容を限定せずに受け入れている
   - 職業/研究学位の教育内容に違いはない
   - 特定の職種の養成ではない
   - 自分の考えをアカデミックスキルで表現、を重視

 ○第6章
   - 博士課程の教育プログラムについて
   - 非教学側と、上級の教学側を育成
   - 両者の教育内容、方法に大きな違いはない

 ○第7章
   - 学位を授与しない組織が提供する研修について
   - 参加する利点
     ・ 上級のアドミニストレーターたちとのネットワークが作れる
     ・ 対人関係スキルの向上
   - 大学院課程の教育を補完するもの

 ○第8章
   - IR職養成のための教育プログラムについて
   - IRを専門とする大学院課程は多くない
   - 学位を出す大学院課程
     ・ 高等教育の管理運営の概要を学び、加えて統計スキルなどを学ぶ
   - 学位ではない修了書のプログラム
     ・ 修了書(サーティフィケート)を出すプログラムが行われている
       - 実施団体はAIRなど
     ・ ただし独自性は小さく内容は大学院課程と類似
     ・ Olsen(2000)を引用し、5つの団体を紹介
       - AIR(IR協会)
       - ASHE(アメリカ高等教育学会)
       - Division J(アメリカ教育研究学会で中等後教育を扱う)
       - SCUP(大学のプランナーの会)
       - EDUCAUSE(テクノロジーが教育に果たす役割を考える協会)

 ○第9章
   - 高等教育プログラム自体の研究、研究者の養成について
   - 実務者養成のニーズに応えることで発展してきた分野
   - 一方、同じ大学院課程で研究者養成も行っている
   - 実務者養成に対応するため、研究が実践的な方向に進むと予想される

 ○終章
   - 全ての章のまとめ
   - 日本では「アメリカの大学職員の専門化が進んでいる」と言われる
   - しかし、そのイメージは正しくない
   - アメリカでの管理運営職養成の高等教育プログラムは、特定の職種に向けた狭い専門性を身につけさせるものではない

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