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大学職員の位置と力の飛躍へ:中教審・大学教育部会の議論に注目を

公開日:2015年8月21日 

記事の情報

概要

中央教育審議会の大学教育部会で職員の位置と役割、その育成が主要課題の1つになっている。テーマは大学職員の資質向上、「事務組織」の見直し、「専門的職員」の配置の3つ。最終的には大学設置基準に盛り込む方向。

<大学職員の資質向上>
2014年の学校教育法改訂で学長の権限・教授会の役割が大きく変わったが、それだけでは学長のリーダーシップは確立できず、職員の役割が重要。求められている「企画能力」(データ分析、課題発見、改善策提案、実行)は知識習得型研修では育たない。

<「事務組織」の見直し>
大学設置基準における職員の規程は第41条のみ(「大学は、その事務を処理するため、専任の職員を置く適当な事務組織を設けるものとする」)。それを「大学の事務組織は、当該大学の目標の達成に向けて、これまで以上に積極的な役割を担うこと組織であることが明確となるよう、法令等において示す」ことが提起されている。

<「専門的職員」の配置>
「大学に、専門的な知見を有する職員を置くことについて、法令等において示す」と提起されている。ただし、大学運営の現実からすれば、求められるのは特定分野の専門能力だけではない。ゼネラリストとスペシャリストのハイブリッド型プロフェッショナルが必要。

興味を持った理由

先日、学内(京都光華女子大学)SD研修会が行われました。その研修会には、京都外国語大学の職員の方々も複数名参加されました(京都外国語大学さんと京都光華女子大学は「FD・SDにおける連携協力に関する協定書」を結んでいます)。参加されていた方から大学職員に関する記事として紹介していただき、興味を持ったので、読んでみることにしました。

感想

大学教育部会で行われている職員に関する議論について、学長の権限・教授会の役割が変わったこと(2014年の学校教育法改訂)と関連付けて解説されていました。個別の詳細な話(これからの職員に必要な能力・技術など)だけではなく、その話が全体のどこに位置付けられるのか(学長の権限・教授会の役割変更だけでは不十分で職員の支援・補佐も必要)が示されていて、わかりやすかったです。職員の支援・補佐の重要性と関連する調査結果としては、例えば、国立大学の教育担当副学長を対象にした調査において、教育改善を進めるにあたって職員を含む多様な学内関係者との意見調整の役割を担っていること[1]や、職務遂行時間の割合として「事務職員との打ち合わせ」が大きいこと[2]があります。

また、全体の中の位置付けだけではなく、そもそも大学設置基準上では職員の規程がどうなっていて、どのように変更しようと検討されているのかも整理されていました。職員の現状と今後を考えていく際の土台となりそうです。

詳細

 ○中教審で職員が議論になっている理由
   - 大学教育部会で職員の位置と役割、その育成が主要課題の1つになっている
     ・ テーマは3つある
       - 大学職員の資質向上
       - 「事務組織」の見直し
       - 「専門的職員」の配置
     ・ 取りまとめ如何では画期的な内容
     ・ 最終的には大学設置基準に盛り込む方向
   - こうした提案の背景
     ・ 学長がリーダーシップを発揮する上で職員の役割が重要
       - 2014年の学校教育法改訂で学長の権限・教授会の役割が大きく変わった
         ・ 2014年2月12日の「大学ガバナンス改革の推進について(審議のまとめ)」が改訂の基になっている
           - 教員と対等な立場で大学運営に参画する
           - 力量向上のための組織的な研修が必要
           - 法改正も含めて制度整備(専門職の設置、SDの義務化など)を検討すべき
       - しかし、それだけでは学長のリーダーシップは確立できない

 ○大学職員の資質向上
   - 職員の育成がなかなか進んでいない
     ・ 日本経済新聞(2015年7月2日付)が文部科学省の調査を紹介(「大学職員研修進まず―全員参加6.6%どまり」)
       - 内容は業務上の基礎知識が多い(約60%)
       - 戦略的企画能力の育成は少ない(約23%)
   - 制度は整備されつつある
     ・ 私学高等教育研究所の2009年調査
       - 新人研修67.5%
       - 全員参加型研修64.5%
       - 階層別研修42.0
   - しかし年1~2回程度の知識習得型研修では、なかなか力は付かない
   - いま求められている「企画能力」(データ分析、課題発見、改善策提案、実行)は定形型研修では育たない
   - SDの義務化によって、育成の制度・運営・予算の抜本的充実を期待する
     ・ 渡米研修・幹部育成型の取り組みを行う大学が出始めている
     ・ 大学院に進学する職員が増えている
       - ただし、まだ7.4%
       - 研究費と比べて圧倒的に予算措置が少なく、支援体制が脆弱

 ○「事務組織」の見直し
   - 大学設置基準における職員の規程
     ・ 第41条のみ
       - 「大学は、その事務を処理するため、専任の職員を置く適当な事務組織を設けるものとする。」
   - 「事務を処理する」は職員が現実に果たしている役割、中教審などの期待どちらとも大きく乖離している
   - その乖離が教授会自治、教員統治の伝統と相まって、職員の大学運営参画を押しとどめてきた
     ・ 各大学の事務分掌規程において、狭い「事務」の範囲とする力としても機能している
   - 現状では職員が教学運営(提案・意思決定)に参画できていない大学は約半数(私学高等教育研究所の調査)
     ・ 教育のことは教員が決めるという根強い意識
   - 一方で正課以外の教育支援はほとんど職員が中心に行っている(私学高等教育研究所「各分野の政策決定における事務局の影響度」)
     ・ 学生支援72%
     ・ 就職支援84%
     ・ 学生募集84%
   - 従来型の事務では果たせない企画・調査・政策提案型の業務が急速に拡大している
     ・ 情報を収集・分析する組織(IR)の常設41.8%(2011年調査)
   - 今回の提起の趣旨を生かし、経営参加、大学運営参画の飛躍的前進を作り出さなければならない
     ・ 提起内容:第41条について「大学の事務組織は、当該大学の目標の達成に向けて、これまで以上に積極的な役割を担うこと組織であることが明確となるよう、法令等において示す」

 ○「専門的職員」の配置
   - 「大学に、専門的な知見を有する職員を置くことについて、法令等において示す」と提起されている
   - 専門的な知見、力を持つ職員とはどのようなものか
     ・ 「ガバナンス改革・審議のまとめ」「学士力答申」で専門力が提起されている
       - リサーチアドミニストレータ―(URA)
       - インスティテューショナル・リサーチャー(IRer)
       - カリキュラム・コーディネーター
       - 学生支援ソーシャルワーカー
     ・ ただし、大学運営の現実からすれば、求められるのは特定分野の専門能力だけではない
       - 大学のあらゆる分野を網羅する
         ・ 学部学科の改組・新設
         ・ カリキュラム充実
         ・ 学習支援
         ・ 学生募集
         ・ キャリア教育・就職支援
         ・ 研究戦略
         ・ 社会連携
         ・ 財政計画
         ・ 施設計画
         ・ 組織・人事計画
     ・ 中核事業の改革方針を自ら立案し、意思決定に持ち込み、PDCAできる戦略経営人材が求められている
     ・ ゼネラリストとスペシャリストのハイブリッド型プロフェッショナル
       - 孫福弘「SDが変える大学の未来」(『Between』2004年6月号)
       - 山本淳「大学職員の『専門性』に関する一考察」(『国立大学マネジメント』2006年12月号)
   - 学長が適切なリーダーシップを発揮するための支援・補佐にはゼネラリストの要素を持つアドミニストレーター(大学行政管理職員)が重要
     ・ 安定性・継続性が重視される
     ・ 内部登用(昇格)が主流となる
     ・ 定義・業務・役割・権限・任用基準・処遇・評価方法などは各大学が定めて公表するのが適切
       - 役割・位置付けが大学で異なるため
   - 他方で大学の教育・研究の高度化を推進・支援する機能
     ・ 内部昇格とともに、外部採用もあり、流動性も考えられる
     ・ そのため、職務・役割・必要資格など、ある程度の目安を示すことが必要かもしれない
   - 教育・研究分野にいる職員の育成・任用を柱とするのが現実的かつ力になる
   - 別の職種を設置するのではなく、「専門的な知見を有する『職員』」として配置する提案が、職員の一体運営上で重要
   - 中教審の議論に注目し、積極面を生かして抜本的な事務局改革を進める
     ・ 2018年に再び訪れる厳しい時代を見据えた必須の課題

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