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育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第6回)配付資料(+[ラーニングコモンズで生じてほしい学び]の設計過程)

公開日:2013年9月19日 最終更新日:2014年3月31日

奥付

資料の概要

将来の教育課程を編成するときに役立つ選択肢・基礎的資料を提供する。他国の状況を見ると、教育課程で目指すものは「何を知っているのか(知識)」から「何ができるのか(スキル・態度)」に変わってきている。また、その育成方法として、教科を横断して設定するか、教科の中で具体的に設定するかは国によって違いがある。日本が目指す方向を考えると、第2期教育振興基本計画で示されているように、社会の変化に対応するだけでは不十分であり、新たな価値を創り出していく必要がある。そこで、本発表では研究開発学校の実践を分析した結果、学習科学の知見などを紹介する。教育課程を考えて行くときには、[目標とする資質・能力]と[教科内容の関係(位置づけ・結び付け)]を示すことが大切。ここでは試案として基礎力-思考力-実践力の三層構造を提案する。

興味を持った理由

ラーニングコモンズで提供する「学びの場」を作るときの参考になると考えたからです。

日本ではラーニングコモンズを設置して、これまでとは違う学びの場を作ろうとする大学が増えています[1]。そして、ラーニングコモンズを計画するときには、どのような設備を入れようかではなく、その場所でどのような学びが生じてほしいかを考えることが大切[2]と言われています。

そこで、ラーニングコモンズで生じてほしい学びを設計していくときの過程として、次の流れがよいのではないかと考えました。
   ① どのような力を身につけてもらいたいか
   ② その力を身につけるためにはどのような取り組みが効果的か
   ③ 力が身についたかをどのように評価するか
   ④ 具体的に運用していくためにはどうすればよいか
上記のようなことを考えていたときに、同じような話が文部科学省の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」で出ていたので、参考になることが書かれているのではないかと思い、資料を読むことにしました。

詳細

 ○研究の目的
   - 将来の教育課程を編成するときに役立つ選択肢・基礎的資料を提供する
     ・ 今後求められる資質・能力を効果的に育成するという観点で資料を作った
     ・ 資料を作成したのは国立教育政策研究所

 ○国際的な動向
   - 目指すものが「何を知っているのか」から「何ができるのか」に変わってきている
     ・ 知識だけではなく、スキル・態度を身につける
   - キーコンピテンシー
     ・ OECDのDeSeCo(デセコ)プロジェクト
     ・ 21世紀型スキル
       - 基礎的リテラシー
       - 認知スキル
       - 社会スキル
   - コンピテンシーを育成するための教育課程の編成
     ・ 国によって方法が違う
       - 到達目標を段階的に設定/学校の修了時点の到達目標として設定
       - 教科を横断して設定/教科の中で具体的に設定
   - オーストラリアの例
     ・ カリキュラムが3種類で構成される
       - 汎用的能力 ※教科ごとに育成する能力を検討
         ・ リテラシー
         ・ ニューメラシー
         ・ ICT技能
         ・ 批判的・創造的思考力
         ・ 倫理的行動
         ・ 異文化間理解
         ・ 個人的・社会的能力
       - 教科ごとの学習領域
         ・ 英語
         ・ 数学
         ・ 科学
         ・ 人文科学と社会科学
         ・ 芸術
         ・ 言語
         ・ 保健体育
         ・ ITC
       - 学際的カリキュラム優先事項
         ・ Indigenous history
         ・ Asia
         ・ Sustainability
     ・ Webにカリキュラムを掲載(橋本の注:ACARA
       - 到達目標を達成した子どもの作品を掲載している
       - 汎用的能力についての記載部分にアイコンを表示している
     ・ 体系的なナショナルカリキュラムの設計プロセス
       - 構想 → 執筆 → 実施 → 評価と再検討
         ・ 構想を設計する流れ
           1. カリキュラムのアウトラインを開発、計画
           2. 調査研究
           3. 草案
           4. レビュー
           5. 協議
           6. 意見聴取
           7. 報告
           8. 草案修正
           9. 採択
         ・ 執筆
           - アウトラインに沿った具体的な内容を開発
           - スコープとシークエンス・達成スタンダードを設定
           - 作品例を収集
         ・ 実施
           - 内容の説明
           - 教材・教師への研修の機会を提供
         ・ 評価と再検討
           - データの分析
           - 教師・諸団体との協議
           - 国際的な比較
   - カナダのオンタリオ州の例
     ・ 内容スタンダードとパフォーマンススタンダードを設定
       - 内容スタンダード
         ・ 一般的な期待と具体的な期待を設定
       - パフォーマンススタンダード
         ・ 知識と理解・思考・コミュニケーション・適用能力の4つを設定
         ・ 到達度を4レベルで設定
           - 基準と比べてはるかに低い
           - 近づいている
           - 到達している
           - 超えている
   - ニュージーランドの例
     ・ アカウンタビリティと報告
     ・ 指導・学習の改善
     ・ 生涯学習力の助長

 ○社会の変化とこれからの教育課程
   - 社会の変化
     ・ グローバル化、資源枯渇、少子高齢化
   - これからの教育課程
     ・ 社会の変化に対応するだけでは不十分
     ・ 新たな価値を創り出していく必要がある
     ・ 「一人一人の自立した個人が多様な個性・能力を生かし、他者と協働しながら新たな価値を創造していくことができる柔軟な社会を目指す」(第2期教育振興基本計画)

 ○求められる資質・能力(=21世紀型能力)の枠組み作り
   - 現行の学習指導要領の枠組み
     ・ 生きる力
       - 知・徳・体の調和
     ・ 学力3要素
       - 基礎的・基本的な知識・技能の習得
       - 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力など
       - 学習意欲
     ・ 課題
       - 育てたい資質・能力の全体像が見えにくい
       - 学習者である子どもが学びを統合しにくい(教科・領域横断的に育てたい力として示されていない)
       - 活動主義(=活動さえすればよい)に陥った実践が見られる
   - 研究開発学校の実践分析
     ・ 思考力・判断力・表現力の育成のために論理的思考力・問題解決力に注目する必要がある
       - 基盤となる思考や表現の型を教える
       - 他教科との関連を図った問題解決的な学習で、それらの型を活用する
     ・ 思考力・表現力の育成と道徳性・社会性の育成を関連付ける
     ・ 情動の制御・人間関係形成について一定のスキルを学ぶ機会を用意する
   - 学習科学
     ・ 実践的教育学
     ・ 学習理論をベースにしている
     ・ 授業現場を研究対象としている
     ・ 協調活動やテクノロジーによる支援を何度も行って学びの質を上げる
     ・ 詳細な学習過程の分析で理論の改訂を図る
     ・ 協調的な学習は育成方法としてだけではなく、目標としても有効(社会構成主義的知識観)
   - 資質・能力の目標と教科内容の関係(位置づけ・結び付け)を示すことが大切
     ・ 資質・能力の育成を教科内容の学びで支える必要がある
     ・ 例:「日常的に科学を利用し、科学を学び続ける力」と「熱と光」
   - 求められる資質・能力の枠組み試案
     ・ 基礎力-思考力-実践力の三層構造
     ・ 基礎力
       - 言語スキル
       - 数量スキル
       - 情報スキル
     ・ 思考力
       - 問題解決・発見力・創造力
       - 論理的・批判的思考力
       - メタ認知・適応的学習力
     ・ 実践力
       - 自立的活動力
       - 人間関係形成力
       - 社会参画力
       - 持続可能な未来への責任
   - 21世紀型能力をはぐくむモデル
     ・ 学習内容×21世紀型能力のマトリックスで指導目標を立てる
     ・ 育成が期待される思考力
       - 思考力
         ・ 問いに対して情報を収集する
         ・ 情報を既存知識と結びつけ、自分の出発点となる考えを創る
         ・ 自分や他者の異なる考えと比較し、関連づける
         ・ 複数の考えを統合し、よりよい解や知識・モデルを発見・構成する
         ・ 解や知識を適用し、次の問や仮説、学ぶべきことを見つける
   - 教科と資質・能力の関係
     ・ 資質・能力を共通目標として語り合うことでどれだけ教科を越えられるかが課題
   - 試行的な実践を行い、結果を考察する

感想

冒頭で「ラーニングコモンズで生じてほしい学びを設計していくときの過程」について
   ① どのような力を身につけてもらいたいか
   ② その力を身につけるためにはどのような取り組みが効果的か
   ③ 力が身についたかをどのように評価するか
   ④ 具体的に運用していくためにはどうすればよいか
がよいのではないかと書きました。①~④の流れについて、今回の資料を読んでみて、またこれまで読んだ文献(本サイト内「IRなどについての文献メモ」)を振り返ってみて、思いついたことは以下の通りです。

上記①「どのような力を身につけてもらいたいか」について、今回の資料で参考になると思ったのは「体系的なナショナルカリキュラムの設計プロセス」のところです。まず構想を練ることから始め、その構想に沿って具体的な内容を固めていくという手順が書かれていました。その手順を進めていくときには、学びを支援するスタッフ・教員がAP・CP・DPを共有していることが大切[3]という方針と正課との連携という視点が重要になりそうです。また、ラーニングコモンズでは学生さんのニーズに合わせたサービスを模索すべき[4]という指摘の通り、事前の準備として[5]のように学生さんがどのような知識・態度などを持っているかを調べたり、[6, 7, 8, 9]のようにアンケートなどのデータを使って、学生さんが普段どのように学習しているか、学んでいくときにどのような期待・不安を感じているのかなどを把握しておくとよいのではないかと思います。

上記②「その力を身につけるためにはどのような取り組みが効果的か」について、今回の資料で参考になると思ったことが2つあります。1つ目は[協調的な学習(学習者同士が対話をする中で理解を深める学習)は育成方法としてだけではなく目標としても有効]というところです。実際に取り組みとしてデザインしていくときは例えば[10, 11]が参考になります。また、協調的な学習が自然に生じる雰囲気を作るために、同学年・先輩・後輩との交流を増やしていく[12]といった工夫も必要かと思いますし、[13]で指摘されているように学生さんが運営に関わっていく体制も重要になると思います。少し観点を変えて、ワークショップなどの手法にも使えるものがありそうです(参考になりそうな文献を[14]でいくつか挙げています)。参考になると思ったことの2つ目は[資質・能力の目標と教科内容の関係(位置づけ・結び付け)を示すことが大切]というところです。この話をラーニングコモンズに応用してみると、[ラーニングコモンズで提供する学び]と[授業で提供する学び]を結び付けるということになるかと思います。そして、授業との結びつきを考えるためには、授業でどのような能力・知識を身につけてもらおうとしているのか、受講する前提として学生さんにどのような能力・知識を求めているのか、授業で十分に支援できていないのはどのようなところかなど、教職員でしっかり確認しておく必要があるかと思います。[3]で指摘されているように、ラーニングコモンズで提供する学びは大学・学部・学科が目指すものと同じ方針になっている必要があります。[ラーニングコモンズで提供する学び]と[授業で提供する学び]の結びつきを示すことが大切になってきそうです。

上記③「力が身についたかをどのように評価するか」について、今回の資料で参考になると思ったのは学習内容×能力のマトリックスで評価の基準・意図を示すという考え方です。評価の基準・意図については、それらがはっきり示されていると学習の動機づけや行動に良い影響がある[15, 16]と言われているので[どのような基準を達成すると力が身についたと言えるのか]、[取り組みを通してどのような力をつけてもらおうと考えているのか]をしっかり伝えることが大切になるかと思います。それを実現する方法として、ルーブリック(何を学ぶのか、自分がどの段階にいるのかがわかる評価基準)[17, 18]が役に立つと思います。ルーブリックの作り方は例えば[19, 20]で説明・紹介されています。ルーブリックを作るときは[働きかける前の状況はどうだったのか]、[どのような働きかけをするのか]、[働きかけた後はどうなったのか]を分けるという考え方[21]が参考になるかと思います。そして、取り組みの効果を確認していくときは、例えばに取り組みを通して学生さんがどのように変わったのかを調べている[22]などの事例が参考になりそうです。

上記④「具体的に運用していくためにはどうすればよいか」について、参考になると思ったのは試行的な実践を行い、結果を考察して改善していくという点です。改善をしていくときは、[23]のように関係する様々な人たちが同じ目標を持って取り組んでいくと効果的だと思います。ただし、日本では大学で行われる学習支援の位置づけが曖昧だったり、取り組みについての情報共有が不十分なことが多いという指摘[24]があります。そのため、改善の取り組みを行っていくときには学内に情報を伝えていく工夫が必要になりそうです。その参考として[25]では、関係者間で情報を共有して気持ちが通じ合うようになっておくことが大切で、気持ちが通じるようになるためには5つのコツがあることが紹介されています。また[26]では、ラーニングコモンズの運営側の熱意をしっかり伝える、まずできることから始めてみる、運営に学生さんを巻き込むなどの工夫が紹介されています。

ラーニングコモンズで生じてほしい学びを設計するときの参考になるのではと思い、今回の資料を読み始めました。これまで読んだ文献と併せて考えていく中で、学びを設計する過程①~④がある程度使えるのではないかなという気がしています。①~④だけを見るとシンプルですが、上記の考え方や方法を組み入れることで、ラーニングコモンズでの学びを設計するときに活かせるものがあるのではないでしょうか。

ラーニングコモンズを設置する大学は増えています[3]。しかし、その動きは始まったばかりなので、ラーニングコモンズで提供する学びについて情報交換をする場は十分ではありません[1]。そのため、生じてほしい学びを設計するときに、どうすればよいか迷っている方は多いのではないでしょうか。そのような方にとって、本ページの内容が何かのお役に立てばと思います。

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