ホーム → 大学に関わる情報メモ → JMA大学SDフォーラム「IR(Institutional Research)の基本と活用事例研究セミナー」
公開日:2013年10月5日
大学職員を対象にしたIR(Institutional Research)についてのセミナーの記録。[IRは○○]という定義ではなく、自分たちの大学に必要なものを作っていくことが大切。データで議論する組織文化が必要。IRの専門家に全て任せてブラックボックスにせず、現場の人たちで行えるようにすることが大切。IRはリーダー・現場にわかりやすく示す必要がある。使われないと意味がない。IRには問題意識・コンセプトが大切。
IRについての基本を知ることができる、さらに福島真司先生(山形大学)・船橋正美氏(一般社団法人日本能率協会)がセミナーの講師をされるということで興味を持ちました。お二人とも以前、京都光華女子大学で開催された「第3回EMIR勉強会」で講演をされています。(「山形大学・京都光華女子大学(共催) 第3回EMIR勉強会を開催いたしました」[京都光華女子大学新着情報2013年03月04日])「第3回EMIR勉強会」では多くの方の講演があったため、限られた時間の中でのご説明でした。今回のセミナーでは時間に余裕があるため、詳しく説明を聞けるのではないかと思い、参加することにしました。
何を知りたいのか・どうしたいのかをしっかり意識しながら、専門家にお任せにするのではなく自分たちでIRを行っていきましょう、身近なところからできることもある(福島先生)というお話が印象に残りました。また、過去の数字だけを見るのでなく、これからどうしたいのかを指標にし、さらに検証していくことが大切(舟橋氏)という視点を得ることができました。
○福島真司先生(山形大学)「IRの基本的な考え方と山形大学のEMIRへの挑戦」
- [学生が学費と期待に見合った学生生活を送れるか]という視点で学生支援をする
- 縦割組織を横断的に管理する
- マーケティングの考え方を使う
・ マーケット調査
- 自分の大学に興味を持った層のデータ
- 志願者・受験者・合格者・入学者のデータ
- 在学時の満足度
・ 満足度などでグループ分けをして傾向を調べる
- 休・退学者のデータ
- 卒業時の満足度
- 卒業後の満足度
※ フォーカスグループインタビューが役立つ
・ STP
- セグメンテーション
- ターゲティング
- ポジショニング
・ サバイバルのためではなく、学生の価値を創造するためのP
- 教育の質向上というよりも、学生の価値創造・最大化を目指す
- [この会議に学生・保護者が参加していたら今の結論になったのか]を常に考える
- 学生のためではなく、学生の立場になって考える
- 個人的な考え・憶測ではなくデータで議論する組織文化にする
・ そのためにはデータベースが必要
・ 各部局の管理者的な教職員が起案に対して「データはあるのか」と問う習慣
- 米国大学の事例紹介
・ リテンション(在籍率)を上げる
・ 教務担当副学長と学部長の責任体制によるプロジェクト
- 米国のIRの歴史
・ 大学の計画的拡大のためにIRスタッフが置かれ始める
・ 説明責任の要求が大きくなったためIRスタッフが多くの大学で置かれる
- この時期、情報管理が紙ベースからコンピューターベースに移行
・ Graduation rateの度入、アウトカムへの説明が多様化、大学ランキングの登場、各大学がデータベースを整理・統合
- この時期、データウェアハウス、ERPが流行
- 米国のIRのトレンド
・ 自動処理で行える範囲が拡大している
- 以前はデータを蓄えるところまで
- 最近は分析・レポート出力まで自動で行える
・ それによって、データを解釈して計画することが重要になってきている
- 従来IRとされていたことが、自動処理に含まれるようになってきている
- 日本のIR
・ 評価・内部質保証には至っていない
- 国の枠組みに沿って対応している側面が強い
・ 戦略的計画・ベンチマークなどの取り組みは少ない
・ 大学の特徴によって行われているIRは様々
- 大規模/小規模
- 中央集権型/分権型3
- [IRは○○]という定義ではなく、自分たちの大学に必要なものを作っていくことが大切
・ 全国統一規格で行うものではない(ベンチマークを除く)
- 山形大学のEMのコンセプト
・ 「私たちの学生を知りぬくこと」
- 山形大学のIR
・ 総合的学生情報データ分析システム
- 各部局が持つデータベースから必要な情報だけを抽出
・ データをやりとりするときは、機関内でも個人情報部分を暗号化する
・ 山形大学ではどの層がよいパフォーマンスを示しているかを分析
- 高校訪問のときにデータを示しながら「○○な生徒さんはいませんか」と言うことができる
・ 休・退学者の相談履歴
- どのような相談がいつ頃されていたのか
- データを蓄積することでリスクグループが発見できる
・ 就職活動
- 同規模・同学部・同一設置形態の平均就職率と比べる
- 経年変化を調べる
・ 卒業生
- 卒業生調査を単体で分析するのではなく、他のデータと突き合わせる
・ GPA・満足度・出欠情報・入試区分・課外活動など
- トライ&エラーが必要
- データを共通言語にする
・ 大学には合意形成という文化がある
- IRの専門家に全て任せてブラックボックスにしてはいけない
・ 部局が自分たちで行えるようにすることが大切
- 教育活動サービスのプロセスにかかるコストを見える化する
- IRの見せ方
・ リーダー・現場にわかりやすく示すシステムが必要
・ 使われないと意味がない
- 大学マネジメントにIRを組み入れる方法
・ IR・EMの組織を作る
- ハードルが高い
・ 予算、人材
- オフィシャル
・ 委員会方式
- ハードルは中程度
- 限られた経営資源の中で行える
- 一応オフィシャル
・ ゲリラ方式
- ハードルは最も低い(やる気があればできる)
- 現場からボトムアップ型で行う
- オフィシャルまで持っていく力が必要
- 現場しかわからないことがある
- IRには問題意識・コンセプトが大切
- 本物のIRの専門家
・ 各部局からデータを提供してもらえる人
- データが提供してもらえないことを言い訳にする人は失格
・ 各部局から分析要望に応えられる
・ よいシステムを提案できる
- シンプルで操作性がよい
・ Excelでもよいものが作れる(とくにExcel2013以降)
・ 現場の教職員と共に議論ができる
・ データのテンプレートが作れる
- 自分でデータを集めるというよりも、どういうデータが提供してほしいかを説明する方が大切
- 研究のためではなく学生を知りぬくために行う
・ そのためには教員よりも職員の方に定着させると効果的
○舟橋正美氏(一般社団法人日本能率協会)「大学経営におけるデータ収集・指標設定の必要性と活用」
- 経営戦略には3つのレベルがある
・ 全学戦略
・ 学部戦略
・ 機能別戦略
- PDCA
・ 短期・中期・長期ごとに行う
・ 進捗を確認するためには目標とデータが必要
・ ミッション(使命)・ありたい姿・経営目標
・ 目標・計画を階層・マトリックスで分解する
・ 目的別予算を算出することで、何にどれくらいの人・カネを使っているかを可視化する
- 過去・現在・未来の観点で状態を調べる
・ 参考:企業のバランススコアカード
・ 未来の姿を数字で示す(例:Waseda Vision 150)
- Input(投入資源)・Output(実施項目)・Outcome(成果)
・ Outcomeを数字で示すことが大切
・ Input・Outputはすぐ調べられるが、Outcomeを考えるのは大変
- 何がどうなれば顧客(学生)は価値を感じるか
- 過去の数字だけを見ていてはダメで、次にどうしたいかについて指標を作ることが大切
- 自己点検・評価
・ 何をしたかだけが書かれている場合がある
・ [○○をした]ではなく[○○をした結果△△になった]が必要