ホーム → 大学に関わる情報メモ → ファカルティ・ディベロッパー養成講座in京都(京都FDer塾)ワークショップ「授業アンケートの見直しと活用方法」
ファカルティ・ディベロッパー養成講座in京都(京都FDer塾)ワークショップ「授業アンケートの見直しと活用方法」
公開日:2013年11月8日 最終更新日:2013年11月10日
概要
授業アンケートは多様な評価のうちの1つ。ただし、全ての授業を受けた者(学生)が評価する方法は授業アンケートだけ。質問項目には、うまく教えているかだけではなく、学びが生じているかという視点があってもよい。授業アンケート以外に、授業コンサルティングなど別の方法でも授業に対する声を集めることができる。
講座の情報
参加しようと思った理由
業務で授業アンケートに関わっています。ワークショップ名に「活用方法」とあったので、業務に取り入れられるものがあるのではないかと思い、参加することにしました。
感想
授業アンケートには[大学全体の状況を把握する]、[個々の授業を改善する]という2つの機能があるという視点を得ることができました。授業アンケートを活用していこうとするときは、2つの機能を混同せずに分けて考えるとよさそうです。
また、何を評価すべきかをあらためて考えるきっかけになりました。事例紹介として、評価項目に[うまく教えていたか]だけではなく[どれだけ学べたか]を含めている大学が紹介されていました。授業アンケートが日本で行われ始めた時期と比べると、授業の方法が変わり、アクティブラーニングが広く行われるようになってきています[例えば1, 2]。望ましい授業の状態が変わる(先生がうまく教えている→学生さんが積極的に授業に参加することで学びが生じている)と、評価の基準を変える必要が出てきそうです。
- [1]溝上慎一(2007).アクティブ・ラーニング導入の実践的課題 名古屋高等教育研究,7,269-287.(アクティブラーニングが導入された授業実践に関する広範な文献調査、アクティブラーニングを講義型・演習型(課題探求型/課題解決型)に分類;小島・井上(2011)で知る)[PDF][内容]
- [2]河合塾(2011).アクティブラーニングでなぜ学生が成長するのか:経済系・工学系の全国大学調査からみえてきたこと 東信堂
そして、授業についての声を集めるための別の方法として、授業コンサルティングが紹介されていました。興味を持ったので、情報交換会でワークショップ講師の佐藤浩章先生(大阪大学)に詳しく教えていただきました。
授業コンサルティングに関連する文献としては、例えば以下の[3~12]があります。
- [3]京都大学高等教育教授システム開発センター(編)(1997).開かれた大学授業をめざして:京都大学公開実験授業の一年間 玉川大学出版部(公開授業型FDの報告、複数の参観者で授業参観を行う、その後に検討会も行う;楢林・佐藤(2005)で知る)
- [4]阿部和厚・西森敏之・小笠原正明・細川敏幸・大滝純司(2000).北海道大学FDマニュアル 高等教育ジャ-ナル,7,29-125.[PDF](ワークショップ型FDの報告、授業スキルの向上のためにグループでの授業を開発し模擬授業を実施する;楢林・佐藤(2005)で知る)
- [5]京都大学高等教育教授システム開発センター(編)(2001).大学授業のフィールドワーク:京都大学公開実験授業 玉川大学出版部(公開授業型FDの報告、複数の参観者で授業参観を行う、その後に検討会も行う;楢林・佐藤(2005)で知る)
- [6]Nyquist, J. D., & Wulff, D. H. (2001). Consultation using a research perspective. In K. Lewis & J. Povlacs (Eds.), Face to face: A sourcebook of individual consultation techniques for faculty/instructional developers 2nd ed. Stillwater, OK: New Forums Press. pp. 45-62.(授業コンサルテーションに必要な5つのステップ、①[問題・課題・疑問の特定](クライアントの悩みを大切にする)、②[データ収集](量的手法・質的手法)、③[データ分析](分析ができないクライアントに生データを渡すと誤解の原因)、④[データ解釈](モデル・枠組み・アイデアを提示する)、⑤[データ変換](授業改善の立案をクライアントとともに行う、何をするかを決めるのはクライアント);佐藤(2009)で知る)
- [7]Lewis, K. G. (2002). The process of individual consultation. In K. J. Gillespie, L. R. Hilsen, & E. C. Wadsworth(Eds.), A guide to faculty development: Practical advice, examples, and resources. pp.59-73.(授業コンサルテーションは最も時間がかかるが最も有益な活動;佐藤(2009)で知る)
- [8]Diamond, N. A. (2002). Small group instructional diagnosis: Tapping student perceptions of teaching. In K. J. Gillespie, L. R. Hilsen, & E. C. Wadsworth(Eds.), A guide to faculty development: Practical advice, examples, and resources. pp.83-91.(学期の中期間に学生の意見を活かした授業コンサルタントを行う、1980年代にワシントン大学で開発された;佐藤(2009)で知る)
- [9]楢林建司・佐藤浩章(2005).ワークショップ型授業の試みと授業コンサルティングサービス 大学教育実践ジャーナル,3,45-55.[PDF][概要](「ファカルティ・ディベロッパー養成講座in京都」佐藤浩章先生の配布資料で知る)
- [10]尾澤重知・牧野治敏・岡田正彦・西村善博(2009).授業改善コンサルティングに基づく大学授業支援システムの開発と評価 日本教育工学会研究報告集,2009(5),39-44.(CiNii Articles「授業コンサルティング」で知る)
- [11]佐藤浩章(2009).FDにおける臨床研究の必要性とその課題:授業コンサルテーションの効果測定を事例に 名古屋高等教育研究,9,179-198.[PDF][概要](CiNii Articles「授業コンサルティング」で知る)
- [12]佐藤浩章・城間祥子・大竹奈津子・香川順子・安野舞子・倉茂好匡(2011).授業コンサルテーションの現状と可能性 大学教育学会誌,33(2),50-53.(<事例紹介>愛媛大学:4名のコンサルタントで年間約40件の依頼に対応、2009年度から農学部の全教員にコンサルティングを実施、今後の課題はコンサルタントの育成・授業アンケートとの目的分化など、徳島大学:支援プロセスは授業参観→コンサルタントによる授業分析→授業研究会でのフィードバックと議論、滋賀県立大学:希望した教員に対して実施、支援者は改善すべき点を「交換ノート」に書く、教員はコメントを書いて支援者に返却する、支援者は指摘事項だけはなく具体的な改善方法・授業の良い点も書く、基本的技術(板書・発声など)に問題がある場合が多い、コンサルテーションの初期にはその基本的技術について改善提案をする、即効性があるので効果を実感してもらいやすい、その上で段階的に改善提案をしていく、<授業コンサルテーションの分類>プロフェッショナルによる指導型・同僚教員による支援型(midterm student feedbackの部分であれば職員の担当も可能)、<コンサルテーションの対象>新任教員がよい、<導入する際の課題など>小規模大学では教員と学生が顔見知りという状態なので第三者によるコンサルテーションが難しい、そのため複数の大学で連携して実施するという方法が考えられる、普及に時間をかける必要がある、1人のコンサルタントが全ての能力(傾聴・教育方法の知識・カリキュラムの理解・人間関係構築など)を身につけることは不可能、複数のコンサルタントの配置が望ましい;「ファカルティ・ディベロッパー養成講座in京都」佐藤浩章先生の配布資料で知る)
内容
※ ワークショップは3名の講師の方々が担当されていました
※ 以下はそのうちの佐藤浩章先生(大阪大学)の内容だけを抜粋して掲載しています
- このワークショップの達成目標
・ 授業アンケートの意義と特徴について説明できる
・ 自らの授業評アンケートの結果をもとに、学生の学習を促す/促していない要因を分析できる
・ 所属組織の授業評価アンケートの改善点について指摘できる
- 米国・日本で授業アンケートが行われるようになった歴史
・ 米国
- 教員が自分の授業を振り返るために行う
・ 管理職が教員評価に使ってはならないとされていた
- 学生のニーズを調べて大学の戦略立案に使う
・ 大学のユニバーサル化、競争の激化
・ 日本
- 一部の大学で行われ始める
- 大学設置基準の大綱化(1991年)以降、政策の後押しで急速に普及した
- 授業アンケートは多様な評価の1つとして捉えるべき
・ 授業アンケートだけで授業を評価しない
・ 全ての授業を受けた者(学生)が評価するのは授業アンケートだけ
- 授業日誌:教員本人による評価
- 同僚による授業参観:一部の授業を観た者の評価
- 授業アンケートは精度の荒い顧客満足度調査として捉えられる
- 質問項目は意味のあるものになっているか
・ 学生は質問項目の背後にある「望ましい授業の姿」を感じ取る
・ 教えることだけに焦点が当たっているのではないか
・ 学ぶことに焦点は当てられているか
- 例:高知工科大学の質問項目
・ 教員はこの科目の達成目標を明確に示しましたか
・ 教員は学生がその目標を達成するために努めましたか
・ あなたはその目標達成のために努力しましたか
・ あなたはその目標を達成でき、十分な力がついたと思いますか
・ この科目はあなたの今後の学生生活や社会生活に役立つと思いますか
・ この科目あるいはその関連科目が好きになりましたか
- 授業コンサルティング ※下記の内容で約20分
・ 授業担当者(A)は次回の授業で別の教員が教室に入ることを告げる
・ 実施する授業の冒頭でコンサルティングを行う教員(B)を紹介する
- 利害関係のない第三者であることを説明する
・ Aは教室から出る&Bは自己紹介と実施内容の説明を行う
- 出された意見は個人が特定できない形で授業担当者に伝えることも説明する
・ 5~6人で1グループになり机を並べ替えてもらう
・ 授業に対する意見を付箋に書き出してもらう
- 授業担当者が学習動機を促進させた言動
- 低下させた言動(改善案も書く)
・ グループ内で自分の書いた内容を説明してもらう
・ グループごとに概要を発表してもらう
- Bはそれに対して評価をしない
・ Bは付箋を回収して教室から出る&Aが教室に入り授業を再開する
・ Bは付箋をテキストに起こす&授業後にそのテキストをメールでAに送る
・ Aは次回の授業でテキストに対するコメントを述べる
- 全科目ではなく特定の科目で行う
・ FD委員会や教務などが指定、教員本人が指定
・ 学生の声を届ける場がなくなることへの配慮も必要
HTML5 CSS Level 3