ホーム → 大学に関わる情報メモ → 教育立国実現のための教育投資・教育財源の在り方について(第八次提言)
公開日:2015年7月11日
教育再生実行会議による第八次提言。国家戦略として、教育投資を「未来への先行投資」と位置付け、その充実を図っていくことが必要。教育投資の必要性(一人一人の生産性向上、少子化の克服、教育の機会格差を生じさせない、社会保障・社会治安等の歳出削減)、とくに優先して取り組む必要があること(幼児教育の段階的無償化及び質の向上、高等教育段階における教育費負担軽減)、科学的な手法に基づき予算と成果をチェック、あらゆる教育段階を通じて「真の学ぶ力」を培う(体験型・課題解決型の学習が必要、小~大を通じて教育内容や方法を抜本的に革新する)、学校が地域社会の中核になる、教育財源確保のための方策(民間資金の活用、税制の見直し)、国民の理解を得るための方策を実施(施策間の優先順位付け、社会経済的効果の検証、情報開示・シンポジウム)。
○はじめに
- 教育再生実行会議の発足は平成25年1月
- 発足してから、これまでに七次の提言を行ってきた
- それを受けて、例えば以下の課題に対する法律制定・改正などが行われている
・ いじめ防止
・ 教育委員会改革
・ 大学ガバナンス改革
・ 学制改革
- これらは長年議論されながら、実現には至らなかった課題
- 一方で、これから本格的に実行され、十分な財政的裏付けを必要とするものもある
- 教育は公財政により支えられている
・ 憲法第26条
- すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
- すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
- 義務教育は、これを無償とする。
・ 教育基本法(平成18 年法律第120 号)
- (教育の機会均等)
・ 仁川宣言
- 2015年5月の世界教育フォーラム2015で採択された
・ 韓国の仁川(インチョン)で開催
・ ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)を中心に、ユニセフ(国際連合児童基金)、世界銀行等が共同で開催
・ 世界160 か国以上から教育関係の閣僚、研究者、民間団体等が参加
- 各国はそれぞれの状況に応じて、教育への公財政支出の増加を目指すことが盛り込まれている
・ GDPの4%から6%、又は、公財政支出全体の15%から20%を教育へ配分することを目指す
- 国家戦略として、教育投資を「未来への先行投資」と位置付け、その充実を図っていくことが必要
・ 教育は我が国社会が抱える課題を解決する鍵
- 経済成長・雇用の確保
- 少子化の克服
- 格差の改善
- 社会の安定
・ 以下のことを通じて一人一人の豊かな人生と、成長し続け、安心して暮らせる社会を実現することができる
- 教育の充実により一人一人が持つ可能性を最大限伸長する
- 教育費負担の軽減により子育てに対する不安要因を低減する
- 上記の課題認識の下で本提言(第八次提言)を取りまとめた
・ 教育再生実行会議第3分科会(2014年立ち上げ)で議論したこと
- 教育投資にはどのような効果があるのか
- 我が国社会が抱える課題を踏まえて、今後どのような教育投資が必要であるか
- そのための財源をいかに確保していくのか など
- 橋本注:第3分科会で議論する分野「教育立国実現のための教育財源など教育行財政の在り方」(教育再生実行会議「教育再生実行会議分科会の開催について」)
・ 政府には本提言を踏まえて教育投資の充実に取り組むことを期待する
- 教育投資の効果や必要性について、教育関係者のみならず幅広く国民的な議論を深める
- 世代を超えて社会全体で教育投資のための負担を分かち合うことの理解の醸成を進める
○1.我が国の成長に向けた教育投資の必要性
- 国際的にも教育は公財政によって支えられている
・ 教育は外部効果がある
- 教育を受けた者だけでなく、それを受けなかった者や社会全体にも恩恵を与える
・ 教育の提供を専ら市場に委ねた場合には、適正な規模の教育が提供されなくなるおそれがある
・ 多くの国では義務教育は無償とされている
- 今後の教育投資の充実が、我が国社会にもたらす効果
・ 教育の革新が日本創生・経済再生を支える
- 一人一人の生産性向上の実現は、教育の力にかかっている
- 労働人口の減少が見込まれている
- 経済社会の活力を維持・向上させていくために必要
- 我が国が経済成長を遂げるために産業構造の転換を図っていく上で、教育は重要な役割を担う
・ 経済社会の基盤
- セーフティネット
- 今後、我が国が経済再生を果たすために必要な条件
・ 以下のために教育投資の充実を図ること
- 「これからの時代に求められる資質・能力」(第七次提言)を培うため、教育内容・方法の革新を実現する
・ 「これからの時代に求められる資質・能力」を「真の学ぶ力」と捉える
・ 初等中等教育、大学入学者選抜、大学教育の一体的な改革を成し遂げる
・ 予測不可能な変化にも対応できる力を備え、新しい知・価値を創造する高度人材を輩出していく
- 社会人が学び続けることができる環境の整備・多様な人材(女性、高齢者、障害者など)が活躍できる社会の実現(第六次提言)
・ 教育政策に労働政策、産業政策、社会保障政策なども絡めてグランドデザインを描き、実行する
・ 生涯学習を核として、高齢者の社会経験や知恵を社会で積極的に活用することが不可欠
- 教育がエンジンとなって、地域を動かし、地方創生を成し遂げる
・ 教育費負担を軽減し、少子化を克服する
- 国立社会保障・人口問題研究所の調査
・ 一夫婦当たりの理想子供数は2.42人
・ それに対して、夫婦の最終的な平均出生子供数は1.96人
・ 理想の子供数を持たない最大の理由は、子育てや教育にお金がかかり過ぎること
- 子供の教育費負担の軽減を図ることが少子化の克服のために有効
・ 子供に関わる経済的負担の中で、最も大きいのは教育に関する費用
- 「子ども・子育てビジョンに係る点検・評価のための指標調査報告書」(内閣府、2013)
・ 質問:「子育てにかかる経済的な負担として大きいと思われることは何か」
・ 回答:全13項目中、上位4項目が全て教育に関する費用
・ 公平・公正な社会を実現する
- 教育の機会格差が生じないように以下のことが必要
・ 学ぶ意欲と能力のある全ての子供たちが質の高い教育を受ける
・ 一人一人がその能力を最大限伸長できる環境を整備していく
- 本人の努力以前に経済的な理由により未来が閉ざされることがあってはならない
・ 我が国では、家庭の経済状況等が子供たちの学力や進学に影響を与えているという指摘がある
- 科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」(研究代表:小林雅之、2011~2014年)
- 平成25年度文部科学省委託調査「平成25 年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女子大学、2014)
・ 教育投資は将来の経済成長や社会保障・社会治安等の歳出削減に貢献
- 教育への支出は「コスト」と考えるべきではない
・ 確実かつ長期的なリターンを得ることができる先行投資
- 将来の経済成長や税収増、医療等の社会保障や治安等の歳出削減にも貢献する
・ 「ペリー就学前計画」(1960年代に米国で実施)
・ 国立教育政策研究所の試算
○2.これからの時代に必要な教育投資
- 7次にわたる提言の内容を実現するためには、以下の方向性で教育投資を充実することが不可欠
・ とくに優先して取り組む必要があること
- 「幼児教育の段階的無償化及び質の向上」
- 「高等教育段階における教育費負担軽減」
・ 優先的・重点的に投資すべき事項を明らかにし、その投資効果を最大化する
- 限られた財源を効率的に活用する
- エビデンスに基づいたPDCAサイクルを徹底する必要がある
・ 科学的な手法に基づき予算と成果をチェックするなど
・ 関係者、地方公共団体の実態の把握も重要
- 教育・学習の多様性・非定型性等を十分に踏まえる
・ 必要に応じ、制度上の課題について検討を進めることも必要
- 方向性
(1)全ての子供に挑戦の機会が与えられる社会を実現する
- 社会全体で幼児期から高等教育段階まで切れ目のない支援をしていくことが必要
・ 幼児期の教育
- 生涯にわたる学びと資質・能力の向上に大きく寄与する
・ 全ての子供達が共通のスタートラインに立つことができるようにする必要がある
- そのために質の高い幼児教育を受ける機会を保障する
- 保護者の願いや選択に応じて特色ある質の高い幼児教育の場が確保されるよう支援していく必要がある
・ 「仁川宣言」で奨励されていること
- 9年間の無償の義務教育
- 小学校入学前にも1年間の無償で義務的な教育を提供
・ 安心して高等教育段階へ進めるようにする
- 高等学校在学時に予約可能な奨学金の充実を図る
・ 経済的に厳しい状況に置かれた家庭の生徒の大学進学率は、他と比較して低い
・ 教育費負担軽減策を講じる
- 子供をもう一人という家庭の希望を叶え、少子化の進展に歯止めをかける
・ 不登校の子供、障害のある子供、外国籍の子供のために、多様な教育機会の確保のための施策を推進する
- 具体的な施策と試算の例
・ 幼児教育の段階的無償化及び子ども・子育て支援新制度に基づく幼児教育等の質の向上[約1兆円]
- 3歳から5歳児の幼児教育を無償化
- 幼児教育・保育・子育て支援の更なる「質の向上」
・ 子ども・子育て支援新制度に基づく
・ 職員の配置や処遇の改善等
・ 高等学校教育段階における教育費負担軽減[約0.5兆円]
- 授業料以外の負担の一層の軽減(高校生等奨学給付金の拡充)
- 授業料負担の一層の軽減(高等学校等就学支援金の拡充) など
・ 高等教育段階における教育費負担軽減[約0.7兆円]
- 大学生等における奨学金の充実
・ 有利子奨学金の完全無利子化
・ より柔軟な所得連動返還型奨学金制度の導入 など
- 大学生、専門学校生等の授業料等負担の軽減
・ フリースクールを含めあらゆる子供の教育機会を確保するための支援
(2)あらゆる教育段階を通じて「真の学ぶ力」を培う
- 「真の学ぶ力」を培うために必要なのは体験型・課題解決型の学習
・ 知識・技能を駆使する
・ 失敗を恐れず積極的に実践する
・ 失敗から原因を分析して次につなげる経験を積んでいく
- こうした学びを実現するためには、小・中・高等学校から大学までを通じて、教育内容や方法を抜本的に革新することが必要
・ 教師が生徒一人一人にしっかりと向き合い主体的・協働的な学びを実施するための指導体制の充実
・ 校内研修をはじめとした研修環境の整備や新たな教育課題に対応した教師養成の充実
・ 学習手段として重要性を増すICTの環境整備
・ 教職員定数について見通しを示し、これに基づいて計画的に教職員の採用・育成・配置を行う
・ 人材確保法の初心に立ち返った処遇の確保や、勤務環境の改善
・ 「チーム学校」として学校の組織力・教育力を高める
- 多様な課題を抱えるようになった学校に、教師に加え、多様な専門人材を配置
・ 大学においても、主体的・協働的な学びを展開するため、大学教員やTA(ティーチング・アシスタント)などの教育体制の充実が求められる
- 具体的な施策と試算の例
・ 教育内容・方法の革新による「真の学ぶ力」の育成や複雑・困難化する教育課題等に対応した指導体制の整備、「チーム学校」の推進など教育体制の構築、教育の革新を実践できる教師の養成・採用・研修の改革[約0.2兆円]
・ 高等学校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的改革
・ ICT活用による学びの環境の革新[約0.2兆円]
(3)「真の学ぶ力」を基に、実社会で活躍できる資質・能力を育成する
- 大学・大学院等においては、教育の質的転換を更に進め、これからの時代の予測しがたい変化にも対応できる人材を育成する機能を強化することが必要
- 国立大学
・ 新たな経済社会を展望した大胆な発想の転換
・ 学問の進展やイノベーション創出に貢献
・ 社会を牽引する人材を輩出する組織へと自己改革
- 私立大学
・ 私学助成の充実など財政的基盤の確立を図る
・ 教育の質的転換のための全学的な体制構築
・ 地域や産業界と連携した教育研究
・ グローバル化への対応などの教育改革を推進
- 具体的な施策の例
・ 卓越大学院(仮称)の形成や成長分野を支える専門職業人養成など社会を牽引する人材育成のための大学・大学院等の機能強化
・ 意欲と能力ある若者の留学促進及び優秀な外国人留学生の戦略的な受入れ
- 日本人の海外留学(目標12 万人)
- 外国人留学生の受入れ(目標30 万人)
・ 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化
(4)学校が地域社会の中核になる
- ソフト・ハードの両面で学校の役割が重視されてきている
- 人と人をつなぎ、様々な課題へ対応し、地方創生の核となる地域コミュニティの中心としての役割を果たしている
- こうした学校の持つ潜在力を十分に発揮するために必要なこと
・ 学校と地域が連携・協働し、子供が抱える課題を地域ぐるみで解決していく体制を構築する
・ 学校施設の機能を高めるための条件整備を進める
- 具体的な施策と試算の例
・ コミュニティ・スクールを核とした地域とともにある学校づくりの推進
・ 「放課後子ども総合プラン」の実現
- 放課後児童クラブとの一体型も含めた放課後子供教室を全小学校区に整備
・ 安全・安心で質の高い国公私立学校施設の整備[約1.8兆円]
○3.教育財源確保のための方策
- 2.で述べた教育投資の充実は「経済・財政再生計画」との整合性を図りながら進めていく必要がある
・ 現在の我が国の財政状況は厳しい
- 社会保障費の増大と国の債務が増え続けている
- 人口構成の変化に対応しながら、資源配分の重点を高齢者から子供や子育て世代にシフトしていくという視点を持つことが重要
・ 我が国の公財政支出の現状は、子供や子育て世代と比べて高齢者世代に著しく手厚い
- 人口動態を反映している
・ 高齢者の貧困率は低下している一方、子供や子育て世代の貧困率が上昇
- 教育財源の確保を図っていく必要がある
・ 予算の質の向上・重点化に取り組むことや民間資金の効果的な活用を図ることが求められる
- 既存の施策や制度を効果的・効率的な実施の観点から絶えず見直す
- 優先順位付けを行う
・ 地方財政措置が講じられている経費は、地域の実情に応じた予算化を推進することも重要
- 経費の例:ICT環境や教材の整備、教師以外の人材(JET-ALTなど)の配置など
- 地方公共団体には積極的な取組が期待される
・ 教育行政の大綱の中で、教育環境の計画的な整備について規定するなど
- 総合教育会議における協議・調整を経る
- 税を通じた財源確保について検討していくことも必要
・ 上記のようなことに最優先で取り組んだ上で、それでも十分な財源を確保できない場合
(1) 民間資金の活用による財源確保
- 公財政による教育投資を補完するものとして、民間資金の活用も重要
- 以下のような取組を進めることが必要(教育活動への寄附や奨学金の支給を行いたいという個人や団体の志を最大限いかす観点)
・ 教育機関や地方公共団体、独立行政法人日本学生支援機構等
- 特色ある教育活動や奨学金等による家計負担の軽減のために必要な財源の確保に積極的に取り組む
・ 寄附金税制やふるさと納税等の措置を一層活用する
- 国が取り組むこと
・ 寄附募集の広報・周知や税制措置の普及啓発
・ 先進事例の紹介 など
・ 大学
- 寄附金収入の拡大に向けて、専門スタッフの配置などの体制整備を図る
- 国が取り組むこと
・ 寄附金税制の一層の拡充について検討する
- 国立大学法人における個人からの寄附に係る所得控除と税額控除の選択制の導入など
・ 資金を提供する個人や団体の取組
- 称え、社会に広く認知されるような仕組みの活用を推進していく
・ 例:国、地方公共団体が寄附者の名称等を冠した奨学金を積極的に広報・支援する
・ 大学における民間資金の導入拡大を図る
- 国、大学が促進させること
・ 民間企業との共同研究
・ クロスアポイントメント制度の導入
- 研究者等が大学や公的研究機関、民間企業等の間で、それぞれと雇用関係を持ち、各機関の下で業務を行うことができる
- 国立大学法人の資産運用の弾力化について検討する
(2) 税制の見直しと教育投資
・ 「経済・財政再生計画」に盛り込まれた税制の構造改革について、特に、以下の取組を進めることが期待される
- 成長の担い手である若い世代を含む低所得者層に対して
・ 個人所得課税等の在り方を見直す
- 勤労意欲を高め、安心して子供を産み育てることができる生活基盤の確保を後押しする観点
- 女性の活躍推進・子供子育て支援の観点 など
・ 資産課税等の在り方を見直す
- 資産格差が次世代における教育等の機会格差につながることを避ける観点
・ 税を通じて広く社会全体で教育財源を負担することも検討すべき
- 例:将来的に、消費税の見直しが検討されるのであれば、税収の使途を年金・医療・介護・少子化対策に加え「教育」にも広げる
○4. 国民の理解を得るための方策
- 3.で述べた教育財源確保のための方策を実現するために必要なこと
・ 広く国民の間で、教育投資の効果や必要性について認識が共有される
・ 「教育は未来への先行投資である」という理解が醸成される
- 政府において、以下のような取組を行い、国民的な議論を深めていくことが必要
・ 公財政支出の世代間の配分の見直しを促進する方策について検討する
- 世代ごとの国民負担と各種サービスに係る公財政支出の状況を明らかにし、国民の意識啓発を図る
・ 各種教育施策について、その効果を専門的・多角的に分析、検証するための体制を整備するとともに、施策間の優先順位付けを行う
- 既存の施策も含め、各種教育施策の社会経済的効果を検証する
- より効果的・効率的な施策の立案にいかしていくサイクルを確立する
・ 国、地方公共団体、産業界、教育界が一体となって、社会全体で教育投資のための負担を分かち合うことの理解の醸成を図る
- 財政支出の状況や、各種教育施策の社会経済的効果の検証の結果を社会に対して情報を開示、発信
- 国民との対話やシンポジウムを全国各地で開催