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呑海沙織・溝上智恵子・大学図書館研究グループ(2011).大学図書館におけるラーニング・コモンズの学生アシスタントの意義 図書館界,63(2),176-184.

公開日:2012年12月21日 2013年2月23日

概要

学習支援とラーニング・コモンズなどの実態を調査した。全国の大学図書館を対象にした質問紙調査と、海外のラーニング・コモンズ運営スタッフなどへのインタビュー調査を行った。結果、図書館で学生スタッフが学習支援に関わっている例は少なく、またラーニング・コモンズに学生スタッフを設置している例もそれほど多くはなかった。学生の目線からサービスなど、学生アシスタントの活動による利点があるため、学生アシスタントは今後重要になってくる。

読もうと思った理由・感想

(以下で書いている「読もうと思った理由」は本サイト内の畠山(2011)で書いている内容と同じです。「感想」は呑海・溝上(2011)用に書いています。)

学生の学習を支援している取り組みを知りたい、またその支援体制の具体的な計画・運営の内容を知りたいと思い、読み始めました。

なぜそのようなことを知りたいと思ったのかについては、以下の通り、2つのきっかけがあります。

1つ目は学内で学生さんの学習意欲がより高まってくるのではないかという予想です。京都光華女子大学では2014年度に学部・学科を再編し、専門職の養成を充実させます。具体的には、健康科学部で看護師、助産師、保健師、管理栄養士、健康運動実践指導者、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士、言語聴覚士の9つの専門職の養成が可能になります[1]。資格取得を目指す学生さんが増えることで学び方が変わってくるでしょうし、その変化の1つとして学生さんの自習意欲が今よりさらに高まるのではないかと考えました。実際に保健分野は比較的学ぶ時間が多いというデータ[2,3]があります。
[1]京都光華女子大学「2014年4月京都光華の学びが進化します」
[2]文部科学省「1週間の授業に関する学修時間について(分野別)」[PDF]
[3]山田礼子先生(同志社大学)「【大学教育部会の審議まとめをめぐって】学修時間の確保に向けてどうすべきか アクティブ・ラーニング導入の効果」

2つ目の話として、自分から学ぶ姿勢の大切さに関心が向けられているということがあります(例えば[4])。京都光華女子大学でも学生さんの主体的な学びの支援を計画し、文部科学省の私立大学教育研究活性化設備整備事業(平成24年度)で「アクティブラーニング促進と主体的な学びを支援する学習環境整備」という取り組みが採択されました。これが1つのきっかけになって、学内でも自ら学ぶことについて支援していこうという動きが今後さらに活発になっていくのではないかと思います。
[4]中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」

以上のようなことがきっかけで、学習支援の事例、計画・運用の内容に興味を持ちました。

図書館で学生スタッフが学習支援に関わっている例は少なく、またラーニング・コモンズに学生スタッフを配置している例もそれほど多くないという結果は意外でした。学生スタッフが有効に機能する環境・仕組みを作るのが難しい、労力・時間・予算に見合った効果が期待できないだろうと思われているなど、いろいろ理由がありそうです。また学生スタッフが学習支援に関わるという考え方が登場してどれくらい経っているのかも理由の1つになりそうなので、後日調べてみようと思います。

詳細

   - 学習支援とラーニング・コモンズなどの実態を調査した
     ・ 全国の755の国公私立大図書館を対象にして質問紙調査を行った
       - 1大学に複数の図書館がある場合は本館的機能の図書館を対象とし、1大学につき1図書館を調査対象とした
     ・ 全体の回答数は527、回収率は69.8%だった
       - 国立:送付数86、回答数76、回収率88.4%
       - 公立:送付数77、回答数62、回収率80.5%
       - 私立:送付数592、回答数389、回収率65.7%
     ・ 海外の3大学のラーニング・コモンズ運営スタッフなどにインタビュー調査を行った
     ・ 今回の調査は量的な把握にとどまる
     ・ 要因の分析は今後の課題
   - 質問紙調査の結果
     ・ 図書館における学生スタッフ
       - 学生スタッフを採用していない:約30%
       - [学習支援サービスに関与しない学生スタッフ]を採用している:約40%
       - 学生スタッフが学習支援サービスに関わっている図書館の割合は小さい:8.9%以下
         ・ 提供しているサービス内容に関わらず総じて小さい
     ・ ラーニング・コモンズにおける学生スタッフ
       - ラーニング・コモンズを設置している:約15%
       - ラーニング・コモンズに学生スタッフを設置している:約20%
       - ラーニング・コモンズの運営に関して他部署と連携している:約25%
   - ラーニング・コモンズの特徴
     ・ 従来は提供する側の都合によって学習支援を提供する場所が分散していた
     ・ ラーニング・コモンズは利用する側の視点に立っていてワンストップ・サービスを提供する
     ・ ただし図書館だけで学習支援を全て提供する必要はなく他部署と協力する方法もある
   - 学生アシスタント
     ・ 学生アシスタントは単なる学生アルバイトではなく図書館スタッフの一員として働くスタッフ
     ・ うまく機能するためには十分なトレーニングが必要
     ・ 海外の大学ではマニュアルや知識・スキルを確認するためのチェックリストなどが用意されている
       - 学生アシスタントはそれらの維持・管理にも携わっている
   - 学生アシスタントの活動による利点
     ・ 学生の目線からサービスを考えることができる
     ・ インフォーマルに学生のニーズを把握することができる
     ・ 利用する学生にとって学生アシスタントは質問しやすい
     ・ 学生アシスタント自身の学びの機会となる
   - 学生アシスタントは重要になる
     ・ 上記の利点のため
     ・ 少子化により大学の財政は厳しく、教員増加も期待できないため

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