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海老原嗣生・倉部史記・諸星裕・山内太地・山崎徹・山本繁・渡辺千鶴・井上久男(2012).危ない大学 洋泉社

公開日:2012年8月4日 最終更新日:2013年2月23日

概要

よく大学を取り巻く環境が厳しいと言うが、実態はどうなっているのか。8名の執筆者による大学の状況や取材結果の紹介。ダメだと言うばかりではなく、どうすればよいと思うかという主張も書かれている。

読もうと思った理由・感想

大学が抱える問題について手軽に概要を知ることができるよと、京都光華女子大学の阿部一晴先生から紹介していただいたのがきっかけです。

本書には状況紹介、取材の結果、主張がいろいろと載っています。その中で議論の根拠として数字をはっきり示している山本さん(NPO法人NEWVERY)の章は特に読みやすかったです。ある考えについて、納得する or 反論する、どちらの立場をとるにしても、比較する基準があるのは建設的な議論の前提だと改めて感じました。

以下の「詳細」では2つの章だけを記載しています。

詳細

 ○消える薬学部、壊れる医学部(渡辺千鶴)
   - 薬剤師の需給バランス(上村直樹教授(東京理科大学))
     ・ 薬学部の半数は、ただ薬剤師の免許を取らせるだけの職業訓練校になっている
     ・ 今後は二極分化していくと予測
       - 職業訓練校
       - 薬学+臨床の問題解決能力の教育
     ・ 受験生・保護者は教育の質を見る目を養う必要がある

 ○大学中退、いまここにある危機(山本繁)
   - 大学中退に関する数字
     ・ 日本の大学の中退率と人数
       - 年間2.6%、7万3000人(研究者、文部科学省外郭団体)
       - 4年間で考えると中退率は10%
     ・ 中退によってフリーターまたはニートになる確率が高まるという調査結果
       - 最終学歴「高等教育機関中退」がフリーター、無職となっている割合(労働政策研究・研修機構)
         ・ 中退後ずっとフリーター
           - 男性:45.9%
           - 女性:58.5%
         ・ 現在無職
           - 男性:8.2%
           - 女性:4.9%
       - ニート状態の若者の31.7%が各教育機関からの中退経験者(社会経済生産性本部)
         ・ 高校中退:12%
         ・ 専修学校・各種学校中退:7.7%
         ・ 大学中退:12%
   - 中退してもどうにかなると思っていたが、どうにもならなかったという声
     ・ 日本中退予防研究所による中退経験者101名へのインタビュー
     ・ リスクのある選択とは考えていない
     ・ 新卒というプラチナカードを手放すことになる
     ・ 日本の雇用・労働環境と中退者のリスク認識に違いがある
   - 中退による影響
     ・ 学生本人
     ・ 学納金に頼る大学
       - 例:在籍者1万人の4年制大学、中退率4%だと、中退した学生が支払う予定だった額は約6億円
     ・ 中退率が上がることによる受験生減少
     ・ 教職員のモチベーション低下
   - 普通の学生が中退している
     ・ 見た目や経歴から中退予備軍を見つけるのは難しい
     ・ 全ての学生が中退予備軍になると考えた方がよい
   - 表向きの中退理由と実態の違い
     ・ 一般的には経済的事情が多いと思われている
     ・ 実際には学習意欲喪失、人間関係、関心の移行など(中退予防研究所の調査)
       - 大学の中退理由調査には本音を書きにくい
       - 無難な理由として経済的理由が選ばれる
   - 大学の教育が今の学生のニーズにマッチしていない
     ・ 限られたエリートたのための教育 → 広く市民に開かれた教育 に変化しているため
   - それを解決するための根本的なアプローチは大学改革を通じた教育力の強化
   - 大学は偏差値、ブランドではなく中退率などの情報で評価される時代がやってきた
     ・ 現在大学は情報公開を義務付けられている
   - 日本中退予防研究所は2016年までに2008年比で中退率を半減させることを目標にしている
     ・ 大学、国、行政、企業、NPOなどが問題解決へのシナリオを共有して取り組めば不可能な目標ではない
     ・ 『中退予防戦略』にまとめた

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