ロゴ

ホーム → IRなどについての文献メモ → 鳥居朋子(2013).質保証に向けた教学マネジメントにIRはどう貢献できるのか?:立命館大学における教学IRの開発経験から

鳥居朋子(2013).質保証に向けた教学マネジメントにIRはどう貢献できるのか?:立命館大学における教学IRの開発経験から 大学マネジメント,9(3),2-7(別紙1枚).

公開日:2014年5月2日 

概要

大学の内部質保証は国内に限定されたトレンドではなく、世界的な高等教育の共通課題。質保証のためには、根拠に基づく意思決定の仕組みを各大学が主体的に構築することが必要。立命館大学では学習成果測定ツール(「学びの実態調査」)を使って教学改善をしている。現状把握にとどまらず、学生の成長を教学マネジメントの施策に反映させる。教職協働で行っている。学内限定の「IRレポート」を発行して、データ・情報に接するアクターの当事者意識を喚起する。それが内部質保証の一歩となる。

読もうと思った理由・感想

タイトルを見て、質保証という観点からIRをどのように説明しているのかが気になり、読んでみました。

立命館大学で行われているIRの事例紹介によって[IRで何ができるか]を説明するとともに、質保証という枠組みの中で[IRをなぜ行うのか]が説明されていました。

物事をより深く理解するためには、具体的な話と抽象的な話を行ったり来たりしながら考えることが必要だと思います。そのようなことが気になっていて、関連しそうな文献を探しているところでした[1, 2]。ぴたりと当てはまる事例を知ることができて、よかったです。

引き続き、大学の取り組み事例などの[IRで何ができるか]という具体的な話と、今回の文献で言われている質保証などの[IRをなぜ行うのか]という抽象的な話の両側の視点からIRを見ていこうと思います。

なお、質保証自体については、知っていて当たり前のこととして、この文献の中では詳しく説明されていませんでしたが、IRとの関係を含め、次のような背景があると理解しています。大学で学ぶ人が限られていた時代と違って、多くの人が大学で学ぶようになった。それに対応して、大学で提供される学びが多様になった。その結果、大学での学びの質を一定の水準にする必要が出てきた。その一定の水準を保証するためにIRを使う。

詳細

   - 大学の内部質保証
     ・ 国内に限定されたトレンドではなく、世界的な高等教育の共通課題の中に位置付いている
       - 「機関(プログラム)の一連の活動に関する質の監視と向上に用いられる大学内部の仕組み」
         ・ UNESCO-CEPESによる内部質保証の考え方
         ・ 根拠に基づく意思決定の仕組みをそれぞれの大学が主体的に構築することが喫緊の課題
     ・ アクター(個人・組織)の主張・利害は一様ではない
       - 自然に任せたままでは体系性を欠いたバラバラなものになりかねない
       - 一致しがたい視点を調整していくことが内部質保証のための前提作業
     ・ 本論は教学領域のマネジメントに焦点をあてる
   - IR
     ・ 行うこと
       - 機関が優先する課題に則して明らかにすることを定める
       - 適切なリサーチクエスチョンを立てる
       - 現状のモニタリングをする
       - 当初の計画・目標に照らした進捗状況を測る
       - 改善に向けた次期計画の策定につながるような意思決定を支える
     ・ 大学の日常的な営みに組み込む必要がある
     ・ 職員の数年単位の人事異動、教員の任期制がIRの担い手・専門性のひとつのボトルネックになっている
       - アメリカなどとは違う日本の状況にあった体制で進めるのが現実的
         ・ 教職員がそれぞれの職能・強みを活かしながら、IRの開発に関わる仕事を分担する
   - 立命館大学のIR
     ・ 学習成果測定ツール(「学びの実態調査」)を使って教学改善をしている
       - 教学改善に関わる意思決定や教学改善の検討課題に資するデータの収集・分析
       - 現状把握にとどまらず、学生の成長を教学マネジメントの施策に反映させる
       - 学習・教授の文脈の特定と学習成果の向上に向けたストーリー化を目指した
     ・ 趣旨に賛同した学部が任意で行っている
       - 対象学年の選択、独自設問の設定
       - 13学部17研究科で同一設問・時期を行うのは難しい
     ・ 主要な調査項目
       - 授業外学習時間
       - 授業経験
       - 学習への取り組み
       - 学習成果の獲得(成長感)など
     ・ 記名式(学生証番号)
       - 教務データとのクロス集計が可能
     ・ 教職協働の利点
       - 教員の尖ったアイデアに職員が現実味を与える
       - 学内の不要なコンフリクトを未然に防ぐ
         ・ アクター間の解釈のずれ、軋轢を回避するだけではなく長期的にはIRの開発コストを下げる
     ・ 主な課題
       - リサーチクエスチョンの精選
         ・ 大学の意思決定を支えるような問いの設定
         ・ "Institution"に固有の文脈に根ざした問い
       - レポーティングの強化
         ・ 信頼性のある分析結果を明快に記すことで根拠に基づいた実効性のある改善策を導ける
     ・ 「学びの実態調査」で明らかにし尽くせない問いには質的調査を行う
       - 学部教員とIRプロジェクトの協働による学生インタビューなど
     ・ 学内限定の「IRレポート」を年6回発行
       - バックナンバー
         ・ No.1:学習の取り組み方
         ・ No.2:学生の成長感
         ・ No.3:学生の成長感とGPA
         ・ No.4:学習意欲の向上と満足感
         ・ No.5:入学時点で身についている力に関する自己認識-新入生の傾向-
         ・ No.6:大学で身につけたい力-新入生の傾向-
         ・ No.7:留学生の学びの実態
         ・ No.8:奨学金を受給している学生の学びの実態①
         ・ No.9:奨学金を受給している学生の学びの実態②
         ・ No.10:正課を通じて上回生は下回生のときより成長したと感じているのか
         ・ No.11:どのような特徴をもつ学生が入学後伸びるのだろうか
         ・ No.12:授業外での学習時間の変化:高校時から大学卒業まで
     ・ 教学の現場で生じている実質的な問いと結びついた形で分析結果を可視化し、レポーティングを提供する
       - それによって、データ・情報に接するアクターの当事者意識を喚起する
       - そして、それが内部質保証の一歩となる

HTML5 CSS Level 3