ロゴ

ホーム → 大学に関わる情報メモ → 平成25年度第3回公開研究会「学生調査の理論と調査票の設計」

平成25年度第3回公開研究会「学生調査の理論と調査票の設計」

公開日:2013年9月14日 最終更新日:2013年9月18日

概要

学生調査をテーマにした研究会に参加したときの記録。学生調査では学生の生活状況や学習習慣などを扱う。学生調査を設計するときは事前に目的をはっきりさせておくことが大切。

研究会の情報

研究会に参加しようと思った理由

業務で授業アンケートに関わっています。そして、どのようにして授業アンケートをより良い学びの環境につなげていくか、その仕組みを作るのが一番難しいところだと感じています。研究会の案内では、目的をはっきりさせてから調査を設計することが大切だと書かれていました。「授業アンケート」と比べて、研究会で説明される「学生調査」は学生の生活状況や学習習慣など幅広い範囲を扱います。ただ、扱う範囲が異なるとはいえ、集計した結果をどのように使うかが大切という視点は同じだと考えました。そこで、授業アンケートとより良い学びの環境のつながりについて、何か役に立つ情報が得られるのではないかと思い、参加することにしました。

内容

   ※ 橋本の注
     ・ 以下で使っている表現は当日の説明・配布資料と違うところがあります
   - 今回の目標
     ・ 教学改善に役立つ質問紙を設計するための基礎を学ぶ
       - その教学改善は学生の意識・実態に合ったもの
   - 日本で行われてきた主な大学生調査
     ・ 実施主体:国・団体 → 研究者 → 大学
     ・ 目的:学生生活の実態把握 → 研究 → 質保証
   - 学生調査を設計するときによくある誤り
     ・ 他大学の質問項目を寄せ集めて自分の大学の調査に使う
       - 調査を通して調べようとしていることは他大学と自分の大学で違うはずなのでNG
     ・ あれもこれも質問しようとして調査票の分量が大きくなる
       - 学生が回答するときに大変で飽きてしまうのでNG
     ・ 調査は行ったが、結果をどう使ってよいかわからない
       - 何を調べるための調査なのかが調査前に明確になっていないのでNG
   - 調査票を作成する前にすべきこと
     ・ 何のために調査をするのかをはっきりさせる(=自分たちは学生の何を知りたいのか)
       - いきなり質問項目を作り始めてはいけない
       - まずは知りたい項目を箇条書きにしてみる
         ・ 例:学習成果、学習態度の習得、DPへの到達度、キャリア意識、施設満足度
       - 各項目について具体的に記述する
         ・ 学習成果の場合の例:レポートを書く力の定着、基礎的な計算能力の向上、専門科目の知識の習得
         ・ 最終的には上記の記述を設問の文に仕上げていく
     ・ どのような形式の調査票にするかを決める
       - 全学統一/学年・学部ごとに異なる
       - パネル調査にするか(=同じ調査対象の経年変化を見るか)
     ・ 分析するときの切り口を何にするか
       - 例:学年、学部・学科、性別、入試形態、出身高校
       - 分析の切り口にすると決めたものは調査項目に含める必要がある
       - 橋本の注:学籍番号を書くなど個人を識別できる方法で調査するのであれば調査項目に含めなくてもよい
         ・ 別のデータ(例:学籍番号+学年)と結びつけることで分析できるため
   - 調査票の設計
     ・ 分析のイメージを作る
       - 仮説を立ててみる
         ・ 例:学年が上がるほどプレゼン能力獲得意識は高くなるのではないか(学年×プレゼン能力獲得意識)
       - 知りたいことを文章にしてみる
       - 最終的に作ることになるグラフ・表のイメージを描いてみる(値はダミーでよい)
         ・ 漠然と思っているときにはわからなかったことや足りなかったことが見えてくる
         ・ 会議などで説明するときの資料にすることもできる(調査で調べたいことをイメージしてもらいやすい)
     ・ 調査票全体のイメージを作る
       - 質問項目間の関係を図にする
         ・ 例:属性×授業に対する意識、知識・技能の獲得状況×将来意識
     ・ 具体的な質問文を作っていく
       - まずはたくさん作って、後から不要なものを削るとよい
       - 最初に決めた調査目的に沿って、質問文を精査する
       - 最終的に分量が多くなりすぎないように注意する
   - 質問文を作るときのポイント
     ・ 曖昧にしない
       - 例:×あなたの兄弟は何人ですか ○あなたの兄弟はあなた自身を含めて何人ですか
     ・ 難解な専門用語、略語を使わない
       - 例:×…育休を取得… ○…育児休業を取得…
     ・ 複数の論点を入れない
       - 例:×あなたはサークルやアルバイトをしていますか ○2つの質問項目に分ける
       - 例:×授業中の私語は周囲に迷惑なのでやめるべきだと思いますか ○授業中の私語はやめるべきだと思いますか
     ・ 回答を誘導するような聞き方をしない
       - 例:×世間では普通AAAだと言われていますが… ○AAAという意見がありますが…
     ・ 抵抗・反発を引き起こす言葉、一般的に「善い」とされている言葉を使わない(間接的な言い回しでニュートラルな印象の質問項目にする)
       - 例:×貧乏 ○貧困
       - 例:×地球に優しい ○環境を意識
     ・ 回答者のプライバシーに触れる質問は慎重に扱う
   - 教学改善に生かせる調査票にするポイント
     ・ 大学の理念、3つのポリシー(AP・CP・DP)などを意識してを作る必要がある
       - 上記の理念・ポリシーを要素に分解し、それら要素を質問文にする
     ・ 調査票以外のデータと結びつける
       - 事前に教務からデータの使用許可をもらっておく
       - 氏名・学籍番号を書くなど、個人を識別できる形式にしておく必要がある
   - 選択肢を設計するときのポイント
     ・ 質問文ができたら、実際に分析作業をする人に見てもらう
       - 選択肢の設計などに意見をもらうことができる
         ・ 例:4件法と5件法を混在させずに、全質問項目を5件法に統一すると統計処理がしやすい
   - 調査票の構成
     ・ 質問文の並べ方
       1. フェイスシート(属性項目)
       2. 時系列・回答しやすいもの・一般的なもの
       3. 調査票で一番聞きたいこと
       4. 聞きにくいこと(収入・親の学歴など)
       5. 自由記述
       6. お礼・問い合わせ先
     ・ 質問のテーマが変わるときはリード文を入れる
       - 例:次に□□□についてお聞きします
       - 回答者の理解を助ける
     ・ 回答を誘導する並べ方にしないように注意する
       - 前の回答が次の回答に影響を与えてはいけない
   - 調査票ができあがってからすべきこと
     ・ プレ調査をする
       - 数名の学生を対象に試験的に調査をする
       - 質問の意味がわかりにくくないか、答えにくくないかなどを確認する
       - 学生からの指摘を踏まえて修正する
   - 調査票のメンテナンス
     ・ 完璧な調査票はない(調査票は生き物)
       - 教育政策の変化、大学の教育方針の変化などによって調査目的も変化する
     ・ 毎年見直して改訂を重ねていく必要がある
     ・ ただし、経年比較・パネル調査をする場合は改訂は慎重に行う必要がある

感想

調査を始める前に何が知りたいかをはっきりさせておくことが大切というお話は、とても納得できました。IRを行うときは「何が知りたいのか」という点を常に意識しておく必要があります[1]。学生調査に限らず、何かデータを集めるときは目的をはっきりさせるように心がけたいと思います。

また、IRについて形態を大きく分けると、①外部評価への対応、②経営活動の改善、③教育活動の改善の3つがあります[2]。京都光華女子大学のIRは例えば[3]で報告されているように、③教育活動の改善という面が強いように思います。そのため、調査の設計をするときだけでなく、授業アンケートなど学内のデータを分析して取り組みを考えていくとき[4]も、教育活動の改善を常に意識しておきたいと思います。

さらに、学びの場をより良くしようとするときは学びを支援するスタッフ・教員がAP・CP・DPを共有していることが大切です[5]。そのため、教育改善をする先にAP・CP・DPがあることも意識していこうと思います。

その他に、大学生調査の目的が[学生の実態把握]から[教育の質保証]に変わってきているという動向を知ることができました。現在の状況の中だけで物事を考えるのではなく過去を含めた広い視野で考えることが大切[6]ということがあるので、大きな枠組み・流れを知ることができて良かったです。

HTML5 CSS Level 3