ホーム → 大学に関わる情報メモ → 学習成果活用部会(第1回)議事録
公開日:2015年7月6日
学習成果の活用について、学習成果活用部会(中央教育審議会生涯学習分科会の部会)で審議。部会で審議する事項:①個々人の学習履歴を記録し活用できる仕組みの構築、②学習成果を地域課題解決などの活動に結び付ける方策、③学習成果の証明に資する検定試験の質保証の仕組みの構築。前回の生涯学習審議会答申(平成11年6月)から今回の諮問までの間に発展したICTを活用する。
京都光華女子大学では、大学・短期大学部ともに平成26年度「大学教育再生加速プログラム(AP)」に採択され、とくに短期大学部ではテーマⅠ・Ⅱの複合型として「学修成果の可視化」が取り組み内容に含まれています[1~3]。学内のAPの取り組みを見聞きする機会が多くなったことに関連して、[正課・正課外で学生さんが学んだことをどのように可視化するか]について詳しく知っておきたいと思うようになりました。そこで、[学んだことの可視化]につなげられる話が出ているのではないかと思い、議事録を読んでみることにしました。
[学んだことの可視化]につなげられそうな話がいくつも出ていました。
例えば、学習成果を学生さん個人の中だけに閉じるのではなく、[学習成果]と[学生さんが関わる社会]をどのように結びつけるのかという視点は、学生さんの成長につながる取り組みに応用できそうな気がします。
レコメンド機能の話が、いろいろな仕組みづくりに応用できそうなアイデアでおもしろかったです。レコメンド機能の話では、[蓄積されたデータを使って、その人に合うと思われる内容(その人に似た内容)を表示する](ボトムアップ、例:Amazon)と、[あらかじめ設定された基準と、その人の現状を比較してシステムが次のステップ案を示す](トップダウン)という2つの方法が紹介されていました。
ICTの発展によって、インフォーマルラーニングの履歴を扱えるようになってきたという話も出ていました。その視点は自分にとって新しく興味深かったので、少し調べてみると、『日本教育工学会論文誌』で2013年に特集が組まれていました(「情報化社会におけるインフォーマルラーニング」)[4]。インフォーマルラーニングに関連した概念を整理した論文(山内,2013)などが掲載されています。インフォーマルラーニングについて、今後、調べてみようと思います。
また、「大学入学者選抜等での検定試験の活用」についても触れられていました。現在、いろいろなところで議論が行われている内容と関係するので、こちらの部会の動きを引き続き見ていこうと思います。
<部会における主な検討事項について>
- 学習成果の活用がテーマ
・ 平成11年6月に生涯学習審議会から答申が初めて出ている
- 橋本注:「学習の成果を幅広く生かす -生涯学習の成果を生かすための方策について- (生涯学習審議会(答申))」
- 個人のキャリア開発に生かす
- ボランティア活動に生かす
- 地域社会の発展に生かす
- 生涯学習分科会としては、平成20年の中教審答申以来の諮問
・ 前回諮問から今回までに学習成果を活用するためのシステム作りがますます求められている状況になっている
- ICTの非常な進展
- 一層の少子高齢化
- 社会の成熟化 など
- 現在の生涯学習推進行政の中での位置付け
・ 学習成果の活用をいかに進めていくかということがなお一番大きな課題の一つ
・ 学びと社会参加の循環ということを進めていこうという共通理解
- 大臣の諮問を受けて部会が設置された
・ 中央教育審議会生涯学習分科会の下に新たに学習成果活用部会が設置された
・ 諮問事項のうち、以下を審議する部会
- 生涯学習によって自己実現及び社会貢献、地域課題解決に向けた環境をいかに整備するか
- 様々な学習(ICT、伝統的な学習)の信頼性や質をいかに確保するか
- ①個々人の学習履歴を記録し活用できる仕組みの構築
- ②学習成果を地域課題解決などの活動に結び付ける方策
- ③学習成果の証明に資する検定試験の質保証の仕組みの構築
- 諮問に至るまでの経緯
・ 教育再生実行会議(内閣官房に置かれている)の第六次提言
- 「国は、大学等の学修に加え、大学等の公開講座、各種の検定試験、通信教育など個々人が学んだ成果を蓄積し、その後の就業や更なる学修に生かせるような学習成果の評価・活用の仕組みや、それらが社会的に認められるようにその質、内容を保証する仕組みを構築する。例えばICTを活用し、学習履歴を記録し、活用できる基盤となるような仕組みを整備する。」
・ 文部科学大臣から中央教育審議会への諮問
- 「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」
・ 二つ目の「生涯を通じた学びによる可能性の拡大、自己実現及び社会貢献・地域課題解決に向けた環境整備について」は生涯学習分科会で審議
・ 2015年4月27日の生涯学習分科会において、より専門的な視点からの審議を本学習成果活用部会で行うことが決まった
- 審議の対象
・ 「資料4-2」2ページ目の「第二に」以降
- 背景
・ 職業においても、仕事以外においても、様々な機会を通じて学びを深め、自身の可能性の拡大、自己実現、社会貢献、地域課題解決に取り組むことは今後ますます重要になってくる
・ 人と人のネットワークを構築し、地域の人の力を結集することで、地域が自立的に発展していくことが求められる
・ 全員参加による課題解決の時代になっていく
・ 上記の考え方の一部は平成20年の中央教育審議会「新しい時代を切り開く生涯学習の振興方策について」で答申
- 「3.目指すべき施策の方向性」
・ 「(1)国民一人一人の生涯を通じた学習の支援」
- 学校教育外で各個人が行う学習というのは自発的な意志に基づくもの
- 行政が限られた資源を投入して生涯学習振興施策を講ずるに当たって必要な観点・視点
・ 我が国社会全体の知識基盤を強固にするという観点
・ 社会や地域からの要請を踏まえた重点的に国民の学ぶ意欲を支えていくという視点
・ 生涯学習を振興する目的や対象をより明確にする
・ そのための学習機会の充実や、学習活動の成果が適切に評価・活用されることを可能とする
- 充実すべき学習活動の具体例
・ 『学び直し』や新たな学びへの挑戦
・ 多種多様な学習機会
- 自己の充実や実社会のニーズ
- 社会の要請が強い分野
- 地域社会、産業界の要請
- 学習活動の成果の適切な評価と活用
・ 平成2年の生涯学習政策が始まって最初の答申から、必要性、重要性といったことが指摘をされている
・ しかし、学習成果の評価や、その社会的通用性の確立に向けた具体的な方策といったものは不十分
・ 平成20年の答申前後の動き
- 大学
・ 社会人向け課程の修了を証明する履修証明制度ができた
- 職業訓練
・ ジョブ・カード制度が開始された
- 民間の事業者に向けた施策
・ 民間の検定事業者の質保証の確保のためのガイドラインを策定
- 民間自身の取り組み
・ 質向上のための団体を設立、ISOなどのサービス規格化
- 人々の学習スタイルが劇的に変化
・ 情報通信技術が急激に社会に浸透して、そこから様々なサービスが生み出された
- MOOCの登場、タブレット端末を使用した学習サービス、スマートフォンによる移動中のすき間時間を利用した学習
- 今後の本分科会の検討の進め方
・ 検討の視点(案)
- 「情報通信技術の進展を踏まえ、様々な活用での学習の成果を適切に記録・管理・活用することで、これらを個々人の地域課題解決につなげられるような仕組みの構築を目標として、検討を進めてはどうか。」
・ 術革新がもたらした恩恵といったものを教育分野こそ受けていこうという発想で、生涯学習振興策を講じていきたい
- 「現在、学校教育段階においてICT活用の様々な試みが多方面で行われていることも考慮しつつ、学生から社会人までの幅広い学習活動を対象とするが、諮問の内容を踏まえ、特に生涯学習の場面での推進方策に重点化し、検討してはどうか。」
・ 今まで民間などの事業者が中心に行ってきた生涯学習を推進する方策について検討
- 「学校教育におけるICT活用や、地域人材(地域コーディネーター等)の育成、大学入学者選抜等での検定試験の活用など、現在進められている他の教育施策への影響等も充分に考慮に入れて、教育全般への波及効果を持つ横断的な施策を目指してはどうか。」
・ 大学入学者選抜など
・ 主な検討事項・課題
- ①「個々人の学習履歴を記録・活用できる仕組みについて」
・ eポートフォリオ(生涯学習パスポート構想の電子版など)
・ 個人情報の扱い
- セキュアな情報の管理と、学習者の同意の下の流通
- ②「学習成果を地域課題解決活動等に結び付ける方策について」
・ 地域等で求められている学習内容と、提供される教育プログラム、個々人の学習活動とをマッチングさせる
・ 個々人の学習成果を評価する主体
- 地方自治体や資格認証を行うNPOなどが想定される
- 他には、SNSなどを活用した学習者主体の評価、第二者、関係者評価
- ③「学習成果の証明に資する検定試験の質保証の仕組みについて」
・ 現在、大学入学者選抜等での活用も課題になっている
- 検討事項の背景となるデータ
・ スマートフォンやタブレット端末の普及
- パソコンは世帯の8割、マートフォンは6割、タブレット型コンピューターは2割
・ 国内のeラーニング市場
- 教育産業全体では約2兆円の市場規模(全体では横ばい)
- 成長している分野の一つとして、eラーニング、映像教育市場
・ 情報通信技術を活用した学習機会の提供の例
- MOOC、放送大学
・ 生涯学習の意向に関する調査
- 世代の違い
・ ICTを用いて生涯学習を行いたいという意向は若い世代ほど多くなっている
- 内容
・ 趣味、教養が多く、職業や仕事は五番目
- 生涯学習を行うに当たっての課題
・ 端末の扱いが難しそうな印象がある
・ 費用が掛かる
・ 講座が少ない
・ 大学の公開講座などの状況
- インターネットを活用した大学の公開講座
・ 検定試験
- 幅広い分野にわたる民間の検定試験が存在している
- 文部科学省では検定実施団体自身による自己評価の実施を推進してきた
・ 大学入試における民間の検定試験の活用状況
- 語学以外にも多種多様な検定試験が現在も活用されている
- 学習履歴の活用についての一つのイメージ
・ 教育再生実行会議「第六次提言」貝ノ瀨委員の資料
- 前回の生涯学習分科会における本部会に関する主な意見
・ 学習履歴の蓄積と活用
- 生涯学習パスポートや、eポートフォリオなどの整備と併せて進めていくことが非常に重要
- 潜在的な地域の人材が生涯学習を通じた学びの中で主体的に自己の学習の履歴を把握し、それを社会的な貢献の機会に結び付けていくことが極めて重要
・ 実際に学習成果を評価する企業や社会のニーズを踏まえることの重要性
・ ICTの活用
- 学習時間や場所に制約のある人々にとって有効
・ 社会人や育児中の人など
- 幅広い学習活動を対象としていくことが重要
・ デッサンをYouTubeで学習など
- 技術革新に後れないようにスピード感を持って議論し、提案し、実践していくことが重要
- eラーニングが普及する中でも、最終的に人間との関わりによる学習ということが引き続き重要
・ 各個人の学習を保障して、さらには各個人が自ら社会参画をしていく中で自己実現ができるというような取組を進めていくことが有効
・ 組織から一度出たときに学ぶという視点が、組織にも大きな付加価値をもたらすのではないか
<委員からの意見発表>
○益川委員(静岡大学学術院教育学領域准教授など)
- 学びの広がり方、自己実現へのつながり、それらへのICTの活用
- 生涯にわたってどういう学習環境で人が学んでいるかについての図
・ 幼稚園、小、中、高、大学、大学院、就職、定年退職
・ LIFEと呼ばれるセンターによる北米のデータ
- アラン・コリンズによる三つの時代(『デジタル社会の学びのかたち』)
・ 徒弟制
- 産業革命前時代
- そこの中で学んで、そこの中で成長して、でも有能に活躍する
・ 公教育
- 工業・産業時代
・ 知識基盤社会
- 生涯学習時代
- 21世紀型スキルの教育と評価プロジェクト
・ これからの社会に必要な10のスキル
- いろいろなテクノロジーも活用しつつ、他者とともに対話しながら、新たな知識、そういうものを生み出して貢献していくような資質、能力が大事
- 三つの学習ゴール(何をもっていい形で学習できたとみなすのか)
・ ①可搬性
- 学んだ場所からちゃんとほかの場所へ持って行ける
・ ②活用可能性
- 世の中にアクションとして使える形になっていくのか
・ ③持続可能性
- 必要なときに学び直すことができる
- 自分の世界の殻の中で、これだけ知っていれば十分だという殻を破る機会
- 二つの熟達の方法がある(発達心理学者の波多野誼余夫先生)
・ 定型的熟達化
- 効率的にあることを間違えず、確実に、何度でも実行できるというようなタイプの熟達
- マニュアル化しやすく、テストで測定しやすい
・ 適応的熟達化
- 状況の変化に合わせて柔軟に実行できるタイプの熟達
- マニュアル化しにくい
- パフォーマンスの測定が重要
- 応的熟達者が育つ条件とプロセスの紹介
- ICTに支えられた生涯学習パスポート活用のイメージ
・ 自分の強みが客観的に把握できる
・ 自分の強みと同じ強みを持つ学習仲間と学習コミュニティーができる
・ 自分が今まで気づかなかった周辺分野への学びが開ける
・ 地域・空間を超えた学習コミュニティーが仕事や趣味の質を変え、そこのところに住んでいる場所の地方創生につながる
- ICTの活用どころ
・ 技術の利用
- レコメンド機能
・ 次にはどういうところを学べばいいですよ、こういう学習コミュニティーに入ってみたらどうですか
・ 技術を組み合わせることで、学習者の視点から学習資格や履修内容の質保証を支えるデータも抽出可能になるのではないか
- 事例
・ クラスの生徒の一人一人がどんな形でつながったのかを可視化
- 自分がどういう位置の人とつながりながら学んでいるのかというのも見える可能性がある
・ 学習可能性を広げるためのツール
- どういう資格を取り合って、どういう内容について議論した人たちが、どういうふうに成長していくか
- 似たような構造を持った人は、次の自分の学習につながるかもしれないから、ちょっと相談してみよう
- その人の持っている資格を自分は次に取りにいってみよう
- 発話データを、KBDeX(フリーのツール)で自動分析
- レコメンド機能に2種類ある
・ 似たような学習履歴などプロセスの記録を持っている人と比較する方法
- Amazonなど
- 大量の学習者の学習履歴データを参考にする
・ 何らかのベンチマーク基準というものがデータベースとして入っていって、それと比べるというようなイメージ
- ベンチマークとなるようなネットワークの構造データベースと、一人一人の学習履歴の状態というのを照らし合わせる
○藤田委員(富山大学地域連携推進機構生涯学習部門副部門長、教授)
- [オープンクラス(大学の正規授業を公開)・公開講座]と[インターネット市民塾]の両輪掛け
・ 講座の受講だけで終わらずインターネット市民塾でも学ぶ
・ ICTの活用とフェイス・トゥ・フェイスの両方で学ぶ
- 地域生涯学習の拠点になることを目指して取り組んでいる
<自由討議(抜粋)>
○山本委員(一般社団法人国立大学協会専務理事)
- 国立大学協会が5年前に出した国民への約束というマニフェストには生涯学習ということは一言も書いていなかった
- 2015年6月15日に出る新たなマニフェストには学び直しへの国立大学のコミットということが強く書かれている
○清原委員(三鷹市長)
- マイナンバーを進めている本部と本部会の情報共有、連携があるのか
⇒ 現時点では直接的な連携はないが、事務局がオブザーバーでIT本部の議論に参画している
○加藤委員(放送大学教授)
- 3種類のラーニング
・ フォーマルラーニング(いわゆる普通の学校での教育)
・ ノンフォーマルラーニング(学校ではないが教育機関で行う教育)
・ インフォーマルラーニング(博物館に行く、本を読むなどの自主的な学習)
- インフォーマルラーニングの学習履歴をどう扱うかが鍵になるのではないか
○左京委員(特定非営利活動法人シブヤ大学学長)
- 生涯学習プラットフォームを使用する人々のニーズは、決して一つではない
・ 人によっては、経験をいちいち記録し、成果として第三者や社会に伝えることは必ずしも必要ではなく、自らの中に蓄積していけば良い場合がある
・ 就業やキャリアアップという個人の学習の目的の場合には、生涯学習プラットフォームに対する使用ニーズが比較的強いのではないか
<今後のスケジュール>
- 検討事項「(1)個々人の学習履歴を記録・活用できる仕組みについて」の部分を中心に集中的に議論
- 夏頃までに中間的な取りまとめ