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畠山珠美(2011).ライティング・センター:構想から実現へ 情報の科学と技術,61(12),483-488.

公開日:2012年12月13日 最終更新日:2013年12月6日

概要

国際基督教大学図書館ではライティングセンターで論文の書き方、情報の集め方を支援する活動をしている。指導を担当しているのは主に大学院生のチューター。ライティングセンターができるまでの経緯、運用方法などを紹介。活動を始めてみると、卒業論文指導の需要が高い。また予約ありで運用を始めたが、予約なしの方が使いやすいという声がある。課題は学生への周知、チューターの研修制度の充実。

読もうと思った理由・感想

学生の学習を支援している取り組みを知りたい、またその支援体制の具体的な計画・運営の内容を知りたいと思い、読み始めました。

なぜそのようなことを知りたいと思ったのかについては、以下の通り、2つのきっかけがあります。

1つ目は学内で学生さんの学習意欲がより高まってくるのではないかという予想です。京都光華女子大学では2014年度に学部・学科を再編し、専門職の養成を充実させます。具体的には、健康科学部で看護師、助産師、保健師、管理栄養士、健康運動実践指導者、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士、言語聴覚士の9つの専門職の養成が可能になります[1]。資格取得を目指す学生さんが増えることで学び方が変わってくるでしょうし、その変化の1つとして学生さんの自習意欲が今よりさらに高まるのではないかと考えました。実際に保健分野は比較的学ぶ時間が多いというデータ[2,3]があります。
[1]京都光華女子大学「2014年4月京都光華の学びが進化します」
[2]文部科学省「1週間の授業に関する学修時間について(分野別)」[PDF]
[3]山田礼子先生(同志社大学)「【大学教育部会の審議まとめをめぐって】学修時間の確保に向けてどうすべきか アクティブ・ラーニング導入の効果」

2つ目の話として、自分から学ぶ姿勢の大切さに関心が向けられているということがあります(例えば[4])。京都光華女子大学でも学生さんの主体的な学びの支援を計画し、文部科学省の私立大学教育研究活性化設備整備事業(平成24年度)で「アクティブラーニング促進と主体的な学びを支援する学習環境整備」という取り組みが採択されました。これが1つのきっかけになって、学内でも自ら学ぶことについて支援していこうという動きが今後さらに活発になっていくのではないかと思います。
[4]中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」

以上のようなことがきっかけで、学習支援の事例、計画・運用の内容に興味を持ちました。

ライティングセンターという学習支援体制を計画し、実際に運用していくまでの流れが書かれていました。ライティングセンター以外の学習支援の取り組みでも、計画・運用を考えて行くときに参考にできるところは多いと思います。

詳細

※原文がPDFで公開されています[PDF]。
 ○国際基督教大学図書館のラーニングコモンズで行っているライティングセンターについて紹介
   - 以前同様の計画があったが見送られたことがある
     ・ 指導をする教員・専門職の確保が難しいという課題があったため
   - その後、教学改革を進めるときにライティングセンターが注目された
   -「言語能力と記述力強化」を最優先課題とし、具体的な改善策を示した
     ・ 授業外に記述力を向上させるサポート体制をつくる
     ・ 図書館のヘルプデスクを拡大・発展させる
   - センターを始める前にライティングサポートデスクという小さな規模から始める
   - 先行事例
    <ワシントン大学>
     ・ 多岐にわたる専門分野からチューターを確保する
       - 多くは院生
       - スキルとやる気がある場合は学部生でも採用する
     ・ 指導範囲
       - 論文をどう組み立てるか、情報収集をどうするかを指導する
       - 文章そのものは添削しない(成績に関わる)
     ・ 図書館は予約管理、チューターの勤務管理、研修の企画をする
    <早稲田大学>
     ・ ライティングセンターが独立して活動している(図書館は運営に関わっていない)
     ・ 理念を掲げて大学全体に周知する
       - 「書き手が成長する」ことを目指す(自立した書き手を育てる)
   - ライティングサポートデスクの開設までの経緯
     ・ 関係者(教養学部長、FD主任、教育プログラムの教員、図書館など)で提案書を作り、意思決定機関で承認され、教授会で報告された
     ・ 運営の責任者は教養学部長、実際の運営業務は図書館
     ・ 図書館のレファレンス近くの一角を利用した
     ・ 40分/回、平日9~17時半、予約制
   - チューターの募集方法
     ・ 教員からの推薦
       - 教授会で教養学部長がアナウンス
       - 全教員にメール+ビラ
       - 数名の教員から回答があり、10名ほどの大学院生が推薦された
     ・ 広報活動
       - サポートデスク開始1ヶ月前から図書館HP、ポスターで募集
       - 図書館でアルバイトをする大学院生の口コミ
   - チューターの研修
     ・ 指導マニュアル
       - 先行事例を参考にドラフトを作成し、教養学部長などの意見を反映させて完成させた
       - チュートリアル後は毎回報告書を作成してもらい、フォルダに保存して情報共有する仕組みにした
     ・ ワークショップ
       - グループワークとロールプレイング
       - 参加者:チューター、運営に携わるレファレンスのスタッフ、附属高校のライティングセンターを運営する教員
   - 利用状況
     ・ 人数(全学年合計)
       - 2010年度冬学期:12名
       - 2011年度春学期:23名
     ・ 使われ方
       - 冬学期:
         ・ 大半が卒業論文指導(引用文献の書き方、ロジックの確認)
       - 春学期
         ・ 通常の要予約の運用に加えて、予約不要を試行(中間・期末レポートが集中する各1週間)
         ・ その結果、通常運用とほぼ同数が利用した(25名)
   - 利用者満足度調査
     ・ 概ね高い評価
     ・ チューターの利用時間(40分)への評価が比較的低い
   - 課題と展望
     ・ 学生へのさらなる周知
       - 現状ではHP、ポスター、Twitterを使っている
       - 授業・ゼミなどで教員にアナウンスしてもらうことが効果的と思われる
     ・ チューター研修制度を確立させる
       - ライティング指導の専門家による講演・講座を計画している
     ・ サービス体制の多様化
       - 予約不要セッションは学生の意見によって始めた
         ・ 予約制は敷居が高い
       - 卒論の時期に合わせた特別な体制などを計画している

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