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早田幸政(2017).大学基準協会の活動の航跡を振り返って:協会成立から認証評価制度の始動前までの時期を対象に政策的視点を踏まえた検証 大学評価研究,16,7-19.

公開日:2020年2月2日 

原文

[PDF]大学基準協会の活動の航跡を振り返って:協会成立から認証評価制度の始動前までの時期を対象に政策的視点を踏まえた検証

概要

大学基準協会成立時から認証評価制度の始動前夜までを4つの期間に区切り、各期間毎の活動上の特色を抽出する。

第1期「大学基準協会成立前後(1946年~1948年)」は活動開始時期。大学基準協会の会員となるための審査の際に適用される基準が「大学基準」であり、それが大学設置基準でもあった。

第2期「大学基準協会成立以降、大学設置基準の省令化直前の時期まで(1949年~1955年)」は活動の黎明期。審査に係る目的・意義の周知のための解説書や「調書(様式)」の作成等を行った。大学院に関する基準を決定し、「大学基準」の場合同様、文部省・大学設置委員会により「大学院設置基準」として採択された。

第3期「大学設置基準省令化以降、相互評価システム構築に至る時期まで(1956年~1993年)」では、活動の停滞局面を経て復活する。大学設置基準と大学院設置基準の「省令化」により、大学基準協会の「大学基準」と「大学院基準」は設置認可基準としての性格を失った。その後、活動の沈滞期に入ったが、「大学基準」と「大学院基準」を全面改定し、省令を踏まえ「その上に立って大学の改善向上を志向」する点に「大学基準」の本質が求められるとした。

第4期「相互評価システム構築以降、認証評価システム始動前夜まで(1994年~2003年)」では、充実・発展の方向に向かう。「大学基準」を全面改定して、「大学基準協会の行う大学評価の基準」であることを明示するとともに、向上基準としての位置づけを明確にした。「大学院基準」も全面改定した。『大学評価の新たな地平を切り開く(提言)』により、相互評価の受審周期を原則7年とすること、「実地調査」を不可欠なものとすること、評価プロセスに外部有識者が参加することなどを示した。また、学位レベル別の評価基準として「学士課程基準」、「修士・博士課程基準」を決定した。

詳細

■ はじめに
   - 大学基準協会成立時から認証評価制度の始動前夜までの大学基準協会の活動の航跡を瞥見する
   - 便宜上、4つの期間に区切り、各期間毎の活動上の特色を抽出する
     ・ 第1期「大学基準協会成立前後(1946年~1948年)」
       - 活動開始時期
     ・ 第2期「大学基準協会成立以降、大学設置基準の省令化直前の時期まで(1949年~1955年)」
       - 活動の黎明期
     ・ 第3期「大学設置基準省令化以降、相互評価システム構築に至る時期まで(1956年~1993年)」
       - 活動の停滞局面を経てその復活を遂げる
     ・ 第4期「相互評価システム構築以降、認証評価システム始動前夜まで(1994年~2003年)」
       - 協会活動が充実・発展の方向に向かおうとする

■ Ⅰ.各期間における大学基準協会の活動の要諦
<1.大学基準協会成立前後(1946年~1948年)>
 ○ 背景
   - CI & E(連合国最高司令官総司令部・民間情報教育局)の主導の下、新たな高等教育制度の構築に着手
   - 当初、CI & E は、「第一次米国教育使節団報告書」の趣旨を具体的に実現する方向で高等教育政策を展開していった
     ・ しかし、この時期は占領政策が転換され、高等教育政策にまで波及
       - 北東アジアの軍事的緊張が極大化

 ○ 大学基準協会の活動
   - 「第一次米国教育使節団報告書」の認識
     ・ 我が国の高等教育の在るべき方向性
       - 高等教育の機会均等を図ることが不可欠
         ・ 民主主義の定着・発展に向け大学を国民に広く開放
     ・ 旧来の高等教育制度を抜本的に変革し、大学関係者を主体的に関与させる制度を確立
       - 大学の設置認可等の実質的権限を「代表的教育者」からなる政府機関に委ねる
       - 認可後の大学の教育研究の質の判定とその維持・向上を推進させる任を大学関係者の「協会」に託す
   - 新制大学の準拠規範の検討
     ・ 大学関係者で構成される「大学設立基準設定協議会」が文部省内に設けられた
     ・ 程なくCI & Eの示唆を受けて同協議会は自主的運営方式に移行
   - 「大学設立基準設定連合協議会」開催
     ・ 1947年5月12日、13日
     ・ 全国規模
     ・ 準拠規範(案)の認識の共有化
     ・ 「アクレディテーション・アソシエーション」の結成に係る提案を承認
       - 同規範の適用を目的とした自律的な大学団体
   - 「第二回大学設置基準設定連合協議会」開催
     ・ 1947年7月7日
     ・ 全国大学代表者が参集
     ・ 可決されたもの
       - 新制大学の準拠規範である大学設置基準案
       - 上記「アソシエーション」の基本規程である大学基準協会定款案
   - 同連合協議会において、大学基準協会の創立総会開催
     ・ 1947年7月8日
     ・ 前日の会議で可決された「大学設置基準」を大学基準協会の「大学基準」として採択
     ・ その採択が意味すること
       - 大学基準協会の会員となるための審査の際に適用される基準が「大学基準」(=大学設置基準)
   - 「大学設置委員会」
     ・ 相当数の委員を大学基準協会の推薦者を以て当てることが予定され、その計画に沿って構成された
     ・ 「大学設置委員会官制」に依拠して正式発足した
     ・ 大学設置認可基準として、上記「大学設置基準」を正式採用することを決定した
     ・ 「大学基準」の改定(1947年12月)。
       - 「体育に関する講義及び実技」に関わる規定を追加
       - 「専門科目」の属する各専攻部門の一覧を別表で示す
     ・ この時期、専門分野別大学基準の設定活動も精力的に進めた
       - 大学教育の質の判定のための基準
     ・ 大学基準協会の創立に当り、大学の設置認可に係る審議・答申を担う権限を付与されその設置が構想されていた
     ・ 1950年8月「大学設置審議会」に、その後さらに「大学設置・学校法人審議会」に改称され現在に至っている
   - 発足当初から堅持していた立場
     ・ 大学の組織活動の有為性を高める営みは大学の自律性を基礎に展開されるべき
       - 官立10大学のみを文部省の直轄とし、それ以外の官・公立の高等教育機関を自治体の管轄下に移すという国のプラン
         ・ 1947年11月、一部マスコミを通じてプランの存在が明らかになった
         ・ 大学基準協会はプランを批判的に検討
       - 大学基準協会「大学教育行政の一部地方委譲に関する意見書」(1947年12月)
         ・ 「大学教育審議会」の設置構想を提示
           - 国の行政監督や政治的影響を排除
           - 大学相互の連合による自治的監理機関
           - 省庁横断的
       - 大学基準協会「教員身分法に関する意見書」(1948年1月)
         ・ 大学教員の任免等を教授会、学長に帰属させることを基本骨子とする
         ・ 政府部内で、新たな公務員制度の法制化作業が進められていた
       - 上記2つの意見書を基に行ったこと
         ・ 「大学教育審議会」要綱案と「大学教員身分法」要綱案を作成
         ・ それら要綱案の趣旨を一層具体化
         ・ 「大学自治法審議資料」の作成・検討
           - 大学の自律的活動が保障されるような自治式の確立を目指す
         ・ いずれも成案を得るまでには至らなかったが、大学基準協会成立期の活動を象徴する事象
           - 教授会自治を軸とする個別大学の自治と大学連合自治の確立を標榜

<2. 大学基準協会成立以降、大学設置基準の省令化直前の時期まで(1949年~1955年)>
 ○ 背景
   - 1952年4月、サンフランシスコ平和条約が発効し我が国は独立を回復
   - 日米間で締結された(旧)日米安全保障条約の下で我が国は西側陣営の重要な一翼を担うこととなった
   - 「第二次米国教育使節団報告書」(1950年8月)の提案
     ・ 我が国大学の教授会自治への修正
     ・ 個別大学の方針を決定する会議体の構成員の大半を学外者で占める
   - 同報告書の趣旨に沿った国立大学管理法案が国会に提出された(1951年)
     ・ 同案は廃案に追い込まれた

 ○ 大学基準協会の活動
   - そうした政治的動向に翻弄されることはなく、大学を対象としたアクレディテーションのシステム化に向け着々と準備を進めていた
   - 創立会員大学を対象に「第一回会員相互資格審査」を実施(1951(昭26)~1952(昭27)年)
     ・ 定款の趣旨を具体的に実現
       - 「会員の自主的努力と相互的援助によってわが国における大学の質的向上をはかる」
   - 会員資格審査の実施に先立ち、「会員資格審査委員会」(後の「判定委員会」)は作業に追われた
     ・ 同審査に係る目的・意義の周知のための解説書や「調書(様式)」の作成等
   - 「第一回会員相互資格審査」
     ・ 「大学基準」の適用を通じて「正会員」に相応しい要件具備の状況を審査・判定する営為であった
     ・ その後、当分の間、「適格判定」と呼ばれた
   - 「大学基準」を5次に亘って改正
     ・ アクレディテーションに向けた条件整備の一環
     ・ その中の重要な改定
       - 1950年6月改定
         ・ 一般教養科目を一本化
           - 「文科系」学生、「理科系」学生の扱いが区々に分かれていた
         ・ 外国語に関する独立の規定を設けた
       - 1951年6月改定
         ・ 「一般教養科目」を「一般教育科目」へと文言変更
         ・ 一般教育の内容とその卒業所要単位
           - 医学部・歯学部について他の学部と異なる扱いをすることを許容する規定を新設
   - 大学院に関する基準
     ・ 創立総会で採択された「大学基準」の「備考」
       - 「大学院に関する基準は別に定める」
     ・ それを受けて協会内部で、その在り方を鋭意検討
     ・ 1949年4月に「大学院基準」を決定
       - 「修士」という名の大学院中間学位が新設された
       - 修士課程、博士課程のいずれもが、研究者養成を目的とするものとして位置づけられた
     ・ 「大学基準」の場合同様、文部省・大学設置委員会により「大学院設置基準」として採択された
     ・ 1955年6月に改定
       - それまで大学院の目的が研究者養成に特化されていたのを改めた
       - 修士課程に研究者養成と高度職業人養成という二様の目的を付与
   - 専門分野別、課題領域別に独立した委員会を設けて調査研究を行い、その成果を公表した
     ・ 三次に亘り『大学に於ける一般教育』を公表(最終版は1951年7月)
       - 教養的な教育の在り方の周知・浸透を図るため
         ・ 大学基準が新制大学の教育課程の重要な柱として「一般教育(養)」を導入したことに伴うもの
     ・ 上記「大学基準」の諸改定は多様な調査研究の成果を、適格判定の準拠規範である「大学基準」に逐次反映させることを目的になされた

<3. 大学設置基準省令化以降、相互評価システム構築に至る時期まで(1956年~1993年)>
 ○ 背景
   - 冷戦構造を背景に日米同盟が一層強化
   - 我が国の行政手法の制度化
     ・ 分権体制の見直しや政府の権限集中
     ・ 規制を通して民間の活動に調整や統制を施す
       - 後に鈴木・臨調路線に沿った各種提言を通して見直しがなされた
   - 1950年代以降、いわゆる高度経済成長期
     ・ 1990年前後のバブル崩壊まで高い経済成長を維持
   - 急速な経済発展を背景に、豊かさを「学歴」によって獲得しようとする社会意識の変化
     ・ 大学への進学熱の急激な高まり
   - 教育条件の劣化を広範に亘ってもたらした
     ・ 私立大学の肥大化
     ・ マスプロ教育の弊害
   - それに対する学生層の不満
     ・ 1970年代に入ると熾烈な学園紛争
       - 日米安全保障条約改定期に高揚した政治運動が大学内に持ち込まれたことと相俟って高揚の一途を辿った
   - その後、大学教育の劣化に対する懸念は、社会全体で共有
   - 高等教育政策の関心
     ・ 高等教育の自由度を高めることと表裏一体の関係にあるものとして、次第に大学評価、大学の質保証の在り方へと移行
       - 「計画」に基づく高等教育の量的整備が重要な政策課題として位置づけられた
       - 私立学校振興助成法の制定(1975年7月)
         ・ 私学経営の安定化や私学の教育研究条件の維持・向上を図ることが目的
       - 高等教育の弾力化、個性化、多様化を標榜する中曽根・臨教審路線の具現化が制度面で推進

 ○ 大学基準協会の活動
   - 「大学基準」が同協会のアクレディテーション基準であるにとどまらず、大学設置認可の準拠規範である建前が崩壊する事態が生じた
     ・ 大学設置基準の「省令化」(1956年10月)
       - 政府権限を強める制度改正が幾つかの行政領域で行われた(いわゆる「逆コース」)
         ・ 地方教育行政法の制定によって教育委員会を中央政府の統制下に置くなど
     ・ 省令化に対する2つの見方
       - 大学設置基準の「省令化」も集権化に向けた国の一貫した方針に呼応するものであったと評価
       - 同基準に代わる審査内規が初期の段階から設置認可の際に用いられており、その省令化は建前と実体を整合させようとしたものに過ぎないとの見解
     ・ 省令「大学設置基準」
       - 当時の経済成長を牽引した産業界の要請に配慮した措置も法定化
       - 概して専門教育重視の課程編成を可能ならしめる内容
         ・ 「基礎教育科目」を低学年時に開設することを認めるなど
     ・ 大学基準協会の「大学基準」は設置認可基準としての性格を失った
       - 大学基準協会の活動に大きな負の影響を与えた
       - その後、同協会は、相当の期間、活動の沈滞期に入り暗中模索の道を歩むことを余儀なくされた
         ・ 省令「大学設置基準」の制定以降、相当長期に亘り「大学基準」の改定がなされなかったことが、その証左
   - 長期間に亘り、大学基準協会の正会員校数、登録学部数は漸増するにとどまっていた
     ・ 大学設置認可基準としての建前が崩れた「大学基準」への適合審査に我が国大学関係者はさほどの関心を示さなくなったと見える
   - そうした状況下でも、適格判定の仕組みそのものが整理・廃止されることはなく、同協会の大学評価機関としての復権につながる遠因となった
     ・ 資格審査を掌る判定委員会は常置委員会として継続設置・運用されるなど
   - 同協会は綿密な計算の下に、将来発展に向けた活路の探査を行っていた
     ・ それまでの任意団体から「財団法人」へと組織の転換を図った(1959年12月)
       - 財産取得に伴う免税措置の可能性を探る中で浮上した構想
       - 当時の協会首脳の共通認識
         ・ 基盤を財政面で充実・安定させることが不可欠
           - 「財団法人大学基準協会設立趣意書」(1959年6月27日)記載の文章からも確認できる
   - 「大学基準と大学設置基準のあり方について」を取りまとめた(1970年11月)
     ・ その中で強調されたこと
       - 「大学基準」を「向上基準」として位置づけその具体化を図る方向で同規定の見直しを行う
       - それらは「静的な面」と「動的な面」の二面的性格が併有されるよう定められるべき
   - 「大学基準」の全面改定(1971年5月)
     ・ 「大学基準」の向上基準としての位置づけが明確化
     ・ 省令「大学設置基準」との有機的関連性が強調された
     ・ 大学設置基準を踏まえ「その上に立って大学の改善向上を志向」する点に「大学基準」の本質が求められるとした
     ・ 同基準の徹底的な簡素化が図られた
       - 各規定の具体的な内容説明は同基準「解説」部分に委ねられた
   - 「大学基準」の一部改定(1974年5月、1979年5月)
   - 学制研究委員会「学制に関する問題点」(1985年7月)
     ・ 一般教育と専門教育の関係、学部と大学院の接続問題を扱う
   - 専門教育研究委員会「大学における専門教育の改善充実について」(1986年11月)
     ・ 学部教育課程における専門教育を取り巻く課題を扱う
   - それら2つの報告書は臨時教育審議会、大学改革協議会の審議にも大きな影響を与えた
   - 「大学基準」の全面改定に係るものと同様の動きは、「大学院基準」についても見られた
     ・ 省令「大学院設置基準」の制定(1974年6月)に伴い、設置認可基準としての機能を喪失した
     ・ それへの対処
       - 「大学院問題研究委員会」を設置(1974年7月)
         ・ 大学院の教育研究の在り方とそれを支える諸条件に関わる改善策を検討した
       - 3次に亘り協会独自の立場から提言を行った
       - 「大学院基準」を全面改定(1975年5月)
         ・ 構成する条項の大綱化
         ・ 省令「大学院設置基準」の存在を前提に、専ら「向上基準」として性格づけられた
   - 大学の改善・向上に関わる新たな方途についての検討を開始した
     ・ 会員校に対する「アフターケア」の在り方を含む
     ・ 私学振興助成法による私学助成が開始された時期とも重なる
       - 「学園(大学)紛争」終息後の大学の教育研究環境の十全な整備が喫緊の課題であると、文教当局・大学・社会が認識
     ・ 「大学自己評価研究委員会」を設置(1979年9月)
       - 大学の質の向上を担保していく上で大学自身による「自己評価」が不可欠であるとの認識
     ・ 「大学自己評価の実施方法に関する検討結果について」(1986年12月)
       - 大学の個別的自己評価の定着化を図る
       - 「大学基準協会による評価を開始する」とする重要な一文も含まれていた
     ・ 「本協会のあり方検討委員会」を設置(1986年2月)
       - 同協会の活動の在り方を抜本的に見直す
     ・ それら提案や検討委員会設置は臨時教育審議会の「第二次答申」の趣旨に呼応したものでもあった
       - 総理府内に臨時教育審議会(臨教審)設置(1984年)
       - 「第二次答申」(1986年4月)
         ・ 諸改革の方向性が示された
           - 大学設置基準の大綱化・簡素化
           - 個別大学の自己評価の定着化と大学団体によるアクレディテーションの実施
           - 大学基準協会の活性化 など
   - 大学審議会発足(1987年9月)
     ・ 「大学教育の改善について(答申)」(1991年2月)
       - 自己点検・評価制度の確立の必要性
       - その客観性を担保するシステムの構築に向け大学基準協会が積極的役割を果たすことへの期待
     ・ その時期に既に大学基準協会が「本協会のあり方第二次中間まとめ」(1990年2月)で示していたこと
       - 協会加盟時の会員資格審査のほかに、加盟後の会員大学を対象とした「年次報告」、「定期的評価」をシステム化する構想
       - 大学への「評価」と文部省の「視学委員」制度との調整についての提案
   - 大学設置基準の大綱化を内容とする法改正(1991年6月)
     ・ 上記の大学審議会答申の提言に依拠
     ・ 自己点検・評価に関する努力義務規定を新規に盛り込んだ
   - 大学基準協会が会員大学向けに『大学の自己点検・評価の手引き』を編纂、配布した
     ・ 専門誌にとどまらず全国紙、テレビの全国ニュース報道で取り上げられた
       - 大学関係者のみならず広く社会に流布され周知されるところとなった
   - 本協会のあり方研究委員会「本協会のあり方に関する第三次中間まとめ-『加盟判定審査』と『相互評価』のあり方を中心として-」(1993年4月)
     ・ 大学の「自主的努力と相互的援助によってわが国における大学の質的向上」を図るという基本路線を堅持
     ・ 一方で、登録学部制を軸とした入会資格審査に限定してきた従来の適格判定制度を転換
       - 入会後の大学の質を定期的に評価することを内容とする質保証システムを構築・運用する決意表明

<4. 相互評価システム構築以降、認証評価システム始動前夜まで(1994年~2003年)>
 ○ 背景
   - 戦後、日米同盟の強化と産・官の強固な連携を軸に、高度経済成長路線を突き進んだ
   - 一方で、同路線の遂行に伴う社会的ひずみを是正するための施策も打ち出していた
     ・ 官の手で経済の発展と国民生活の安定の調整を図ることを志向したもの
     ・ 「小さな政府」から「大きな政府」へという国家像の転換とも符合したものであった
     ・ 「護送船団方式」と揶揄する向きもあった
       - 財政構造の赤字体質を常態化、政府主導で経済の需給調整が図られることに伴う経済や社会の活力の減退化を危惧
   - そうした経済社会の閉塞状況を打破する一環として、民営化路線、規制緩和に係る政策路線も強力に推し進められた
     ・ 中曽根政権以降、「国鉄分割民営化」や「三公社民営化」等の民営化路線が推進された
     ・ 銀行、保険、証券の各金融分野における金融緩和(「金融ビッグバン」)
     ・ 大学の設置認可手続等の簡素化も図られた
   - 中央省庁再編(2001年1月)
     ・ 行政のスリム化と機動性の確保を旗印とした行政改革の一環
     ・ その再編過程で現在の文部科学省が誕生した
   - いわゆる小泉構造改革が強力に展開されることとなった
     ・ 「『官』から『民』へ」、「『競争』と『評価』」、「『選択』と『集中』」という政策スローガン
     ・ 同改革は「規制改革」の推進という方式において行われた
       - 「規制緩和」
         ・ 規制のレベルを引き下げることを眼目とする
       - 「規制改革」
         ・ 規制の緩和にとどまらない
         ・ 市場競争原理が有効に働くような環境を政策的、制度的に創設しその継続を確保しようとする

 ○ 大学基準協会の活動
   - 上記の「本協会のあり方に関する第三次中間まとめ」(1993年4月)に依拠して新たな大学評価の実施準備を進めていた
     ・ 「大学基準」の全面改定(1994年5月)
       - 「大学基準」は「大学が適切な水準を維持しその向上をはかるための指針」として設定されたもの
         ・ 「大学基準協会の行う大学評価の基準」であることが明定された
       - 「大学基準」の向上基準としての位置づけ
         ・ 大学評価を行う中で大学の「理念・目的」の成就を規範面から促進・支援する
       - 学内に確固とした自己点検・評価の体制の確立を求める
         ・ それを大学の組織活動の改善プロセスの中で適切に運用することも求める
   - 『大学評価マニュアル』1995年1月
     ・ 新たな大学評価の解説書
     ・ 周知を図るべく、全国11会場で大学評価説明会を開催
   - 「大学院基準」の全面改定(1996年3月)
   - そうした一連の準備作業終了後に、新たなシステムに基づき、1996年度第1回大学評価が開始された
     ・ 新システムの大学評価の特徴
       - 「加盟判定審査」と「相互評価」をそれぞれ異なる体制・手続の下で実施
         ・ 加盟判定審査
           - 新規正会員登録のための審査
         ・ 相互評価
           - 既存の会員校を対象に「第三者評価」として実施
       - 従来の登録学部制を廃止
         ・ 「大学」を総体して包括評価することとなったことに伴うもの
   - 『大学評価マニュアル(第一次改訂版)』(1997年3月)
     ・ 『大学評価マニュアル』刊行後に、『大学院基準』の改定が行われたことに伴うもの
     ・ 、「大学基準」、「大学院基準」のいずれもが掲記された
   - 経済企画庁経済研究所・教育経済研究会「エコノミストによる教育改革への提言」(1998年4月)
     ・ 定員管理を通じた需給調整規制の緩和・廃止
     ・ 国立大学と私立大学の間の競争条件の改善
     ・ 「多元的大学評価」システム構想
       - 消費者主権を貫徹させるもの
       - 大学基準協会を軸にマスコミ、受験産業などの「民」の組織が担うことが構想された
   - 大学審議会「二十一世紀の大学像と今後の改革方針-競争的環境の中で個性が輝く大学-(答申)」(1998年10月)
     ・ 「多元的大学評価」システムの創設を提言
     ・ ただし「多元的評価」システムの中心に据えようとしたものが上記提言と異なる
       - 「民」の組織である大学基準協会ではなく、「官」に属する組織として誕生しようとする大学評価機関
         ・ 国の設立に係る「大学共同利用機関と同様の位置づけ」の大学評価機関
     ・ 答申には、国の機関が大学評価に関わる調査研究を行うことのみ明記されそれ以上の言及はなかった
     ・ 協会首脳部の多くの認識
       - 国設の大学評価機関が設置される
       - その評価対象が国立大学にとどまらず、公立・私立大学をも射程に入れて評価を行う
     ・ 高等教育政策にどう臨むべきか、について踏み込んだ議論を行うところとなった
   - 『大学評価の新たな地平を切り開く(提言)』(2000年5月)
     ・ 15の章立てで構成される
       - 大学評価の背景・意義とその類型
       - 評価基準・評価指標のあり方
       - 加盟判定審査と相互評価のシステム改革
       - 大学評価の組織体制の改革
       - 大学評価の実施プロセスの改革
       - 大学評価とその結果の公表法
       - 大学評価結果の効果 など
     ・ 特質
       - 相互評価の受審周期を原則7年とする
       - 成果目標や推奨モデルを重要な評価の指標とする
       - 「実地調査」を大学評価のプロセスにおける不可欠の要素として組み込む
         ・ それまでは特に必要な場合のみ行っていた
       - 異議申立制度を創設する
       - 大学評価プロセス中に、外部有識者の参加を仰ぐ仕掛けを新設する
       - 国際的通用力を意識した評価システム改革の方向性を鮮明に打ち出した
         ・ 教育プログラムや資格のグローバル化の進展を見据えたもの
         ・ 協会が1996年3月に「高等教育質保証機関国際ネットワーク(INQAAHE)」に加盟していたことと無関係ではなかった
   - 「新構想の大学評価に関するアクション・プラン(その1)-『大学評価の新たな地平を切り開く(提言)』を受けて-」(2001年5月)
   - 同構想に依拠した大学評価が2003年度より始動することとなった
     ・ 新構想の大学評価の特質
       - 「機関評価」を原則としつつ「相互評価」に限り、弾力的に「教育プログラム評価」を加味した評価形態をとることができる
       - 主要点検・評価項目を3つの範疇に分類
         ・ (A)群
           - 大学として具備すべき基本要件からなる
         ・ (B)群
           - 教育研究等における活動の適切性を検証するために設定
         ・ (C)群
           - 特色ある制度措置を導入した大学に同制度の有効性を評価してもらうために設定
       - 二種の審査・評価における点検・評価項目の差異化を図ろうとした
         ・ 加盟判定審査では(A)群を必須の評価項目とする
         ・ 相互評価では(A)群、(B)群を必須の評価項目とする
       - 大学基準協会のロゴ付きの「認定マーク」の使用を認めるようにした
         ・ 「基準適合」の認定を受けた大学が対象
         ・ 認定の効果が継続する期間を明示
   - そうした改変の原動力が、当時の協会の強い危機感に由来したものであったことは間違いない
     ・ 大学評価・学位授与機構
       - 2000年3月改正の国立学校設置法に設置根拠を持つ
       - 2003年度より本格稼働することとなっていた
       - 大学基準協会は大学評価分野における「対抗軸」と位置づけていた
   - 我が国高等教育政策は新たな段階に突入した
     ・ 小泉政権の下で推進された「構造改革」の影響が高等教育分野にまで及んだことに伴うもの
     ・ 総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第一次答申」(2001年12月)
       - 大学の自由度を高め競争的環境の形成に向け大学設置等の規制を緩和する
       - 一方で、定期的なアクレディテーションとその結果公表を通じて大学の質を担保する制度を創出する
       - アクレディテーションを実施する機関は、文部科学大臣の認可を得て、その活動を開始・存続できるものとする
     ・ 中央教育審議会「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)(2002年8月)
       - 総合規制改革会議や経済財政諮問会議により高等教育分野に「競争と評価」の原理を導入することを求める提言が相次いでなされる中で出された
       - 設置後の状況を第三者が継続的にチェックする体制を整備する
         ・ 大学の設置認可の弾力化を進めることと表裏一体の関係
       - 一定の要件を充たした第三者評価機関を国が「認証」する仕組みを創設する
       - 全ての大学が「認証評価機関」の機関別評価を受けることを義務化する
     ・ それらを具体的に実現するために、認証評価の仕組みが法定化された
       - 学校教育法の改正(2002年11月)
     ・ 協会は「学士課程基準」、「修士・博士課程基準」を新たに決定
       - 「大学基準」、「大学院基準」の再定義と見直しの上で行った
       - 学位レベル別の評価基準としての位置づけをもつ
   - 大学教育の国際的質保証に関する「東京宣言」を採択(2002年7月)
     ・ 「高等教育質保証機関国際ネットワーク(INQAAHE)」と共同
     ・ 大学基準協会がINQAAHEの枠組みを通して大学教育の質保証に貢献する
     ・ 我が国大学の国際的通用力を高めるため協会として大学評価システムの高度な改革に取り組む
     ・ 国内外の期待に応えるべく、国際的に通用する大学評価システムの開発とその効果的な運用に邁進することを宣言

■ Ⅱ.各期間における大学基準協会の活動の特色と大学評価活動の変容
   - 第1期「大学基準協会成立前後(1946年~1948年)」
     ・ 当初CI & Eの主導の下、高等教育政策は民主的で開放的な施策として具体的に展開されていた
     ・ 北東アジア情勢が緊迫の度合いを増す中で、占領政策が大きく転換
       - 高等教育政策においても大学管理体制の創出を指向する計画が政府によって示された
         ・ 「大学の自治」へ負の影響を及ぼしかねないもの
     ・ 大学基準協会の立場
       - 「大学連合自治」の確立を標榜し、当初から国と一定の距離を置く
       - ただし、大学の設置認可の準拠規範を文部省と共有
         ・ 同省の認可行政に能動的に参与
         ・ 認可後の大学の質保証を同協会が主体的に担う
       - 一方で、「教授会自治」の縮減と国立大学等への統制強化を模索する政府の動きには慎重な立場
         ・ 教授会自治は「大学の自治」の核心をなす
   - 第2期「大学基準協会成立以降、大学設置基準の省令化直前の時期まで(1949年~1955年)」
     ・ 二つの性格を併有する「大学基準」に則って、初回の「適格判定」活動を行う準備を進めていた
       - 二つの性格
         ・ 設置認可の準拠基準
         ・ アクレディテーション基準
     ・ その準備過程で、「大学基準」の改定を重ね、新たに「大学院基準」も決定
     ・ 新制大学の教育課程の重要な柱である「一般教育(養)」の在るべき姿を考究し、解説書を出した
     ・ 1951年~1952年の2年に亘り初回の「適格判定」である「第一回会員相互資格審査」を実施
       - 既存会員に対する「会員資格」の再審査
       - 「大学基準」は、「アクレディテーション基準」としての役割を遺憾無く発揮した
   - 第3期「大学設置基準省令化以降、相互評価システム構築に至る時期まで(1956年~1993年)」
     ・ 冷戦構造の下での国際情勢の不安定化、行政の広域化・肥大化
     ・ 高等教育分野を含め、行政権限が政府に集中した
     ・ 「大学設置基準」の省令化
       - 大学基準協会の「大学基準」から設置認可基準としての性格を消失させた
       - 大学基準協会関係者にとっては衝撃的
       - それ以降の相当期間、適格認定活動、基準改定活動の双方の活動が停滞
     ・ 規制緩和路線
       - 大学設置認可に係る基準や行政手続の弾力化・簡素化が指向された
       - 大学基準協会は、「大学基準」の向上基準としての位置づけを明確化させた
       - 各大学の点検・評価の客観性を担保する方向性を模索
   - 第4期「相互評価システム構築以降、認証評価システム始動前夜まで(1994年~2003年)
     ・ 「『競争』と『評価』」の具現化を求める政策的要請は、高等教育分野にも拡大
     ・ 入会のための会員資格審査と並行して、事後チェック若しくは事後評価のための組織体制の充実とその効率的運用に乗り出した
       - 事後チェック・評価は政府・各種審議会が事前規制の軽量化と引き替えに求めたこと
         ・ 大学基準協会の「大学基準」(及び「大学院基準」)を改めて向上基準として性格づけた
         ・ 「事後評価」ための準拠規範として上記大学評価に臨んだ
       - 当時の政府政策に呼応
     ・ 国の大学評価機関としての位置づけを有した「大学評価・学位授与機構」を「よきライバル」と見做した
       - 更に大学評価システムの改善・改革とその有効性の向上に向けた活動に邁進するところとなった

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