ホーム → IRなどについての文献メモ → 加藤信哉・小山憲司(編訳)(2012).ラーニング・コモンズ-大学図書館の新しいかたち- 勁草書房
公開日:2012年9月5日 最終更新日:2013年2月23日
情報技術の発展により、図書館に行かなくても学術情報が手に入るようになった。そのため図書館は何のために存在するのかを説明しないといけなくなった。図書館が出した答えは場所として学びを提供するというもの。その流れでラーニング・コモンズが登場した。
ラーニング・コモンズを計画するときには、どのような設備を入れようかではなく、その場所でどのような学びが生じてほしいかを考える必要がある。
図書館だけでは、なかなかラーニング・コモンズはうまくいかない。情報技術担当の部署、学生支援の部署と連携していく必要がある。またラーニング・コモンズで生じてほしい学びは大学が目指す教育内容と深く関係するので、大学の方向性を企画する部署とも連携が必要になる。
多くは図書館にラーニング・コモンズが作られる。しかし、いろいろな部署が関わるため、図書館はラーニング・コモンズのことを全て決められるわけではない。またレファレンスサービスではなく、例えばパソコンの使い方についての質問がどんどん増えてくる。そうなったときに図書館員に不満が出てくることもある。図書館はどういう場所で、提供するものは何か、図書館員は何をする人なのかを改めて考えないといけない。
成功しているラーニング・コモンズを紹介。計画するときに役立つチェックリスト、作った後の評価報告書を公開している大学がある。それらの概要、URLを紹介。
ラーニング・コモンズの話を聞く機会が増えてきたので、どういうものなのか詳しく知っておこうと思い、読み始めました。
この文献を読んで学んだことは、4つ。
1.どのような設備を入れるかではなく、どのような学びを生み出したいかを先に決めないといけない。設備を先に決めている事例が多いようです。この話がラーニング・コモンズを作っていくときに最も重要になりそうです。
2.大学が全て決めてしまうのではなく、どのような学び・設備がよいのか、学生さんに聞いてみる。利用者の声を聴いている事例は少ないとのことです。学生さんの話を何も聞かずに場所を作る場合、うまくしないと的外れなものができあがることになるかもしれません。せっかく新しい場所を作るのであれば、一緒に参加してもらいながら、役に立ち、たくさん使われる場所にしていければよいと思います。その場合、意見を聞く側は自分の考えをしっかり持っておく必要がありそうです。何の考えも持たずに、意見を聞いた結果だけで決めてしまうことはまずいと思います。
3.作るだけではなくて、作った場所を維持することも考えておく必要がある。PCなどの機器、学生さんをサポートする職員にはお金がかかります。予算をつけてもらうために、作った場所をきちんと評価する方法を整えないといけません。評価のためには、そこでどのような学びが生じていればよいのかをはっきり示す必要があります。また学生さんにスタッフとして協力してもらう場合、卒業などによる人の入れ替えをどうするかを考えないといけません。しっかりした育成の仕組みを整え、Q&Aを作り込むなど、毎回新しくやりなおさないで済む方法が必要になりそうです。
4.学習形態として個別学習・グループ学習の他に、同じ場所にいるが一緒に勉強しているわけではないという形がある。具体的に学びの場を作っていくときには、それぞれ区別して考えて行く必要がありそうです。
この文献に出てくる用語・考え方について。「インフォメーション・コモンズ」と「ラーニング・コモンズ」が出てきます。インフォメーション・コモンズについて言うときは情報機器などが利用できる「環境」を意識し、ラーニング・コモンズについて言うときは設けた場所で生じる「学び」を意識します。実務では、用語が何を意味するのかについて話し合うことはないと思いますが、設備を整えたいのか、学びの場を作りたいのかをはっきりさせておくことは重要になりそうです。
ラーニング・コモンズ-大学図書館の新しいかたち-(勁草書房)
○図書館が電子化したことで図書館の機能・役割が変わってきた
- 図書館はもう必要ないのではないかという問い
・ それに対して図書館側が「学びの場」として残るという道を選んだ
- 2006年に「ラーニング・コモンズ」が米澤誠によって日本に初めて紹介された
・ 知識の伝達 → 知識の想像・自主的学習 という考え方
○本書では2003年~2008年の10論文などを紹介する
- 共通した主張
・ 施設・設備だけがラーニング・コモンズではない
・ 図書館の機能・役割が再構築され始めている
・ ラーニング・コモンズを通じて、図書館が将来どうなっていくべきかが語られている
- ラーニング・コモンズの主要図書を紹介
・ Beagle(2006)
- ラーニング・コモンズの歴史的背景
- ラーニング・コモンズと大学との関係
・ Bailey et al.(2008)
- 成功事例の紹介
・ その他
- 本書に収録した論文の概要
・ 第1章
- 2007年に行った18大学の調査
- ラーニング・コモンズがどのように計画され、どのようなもので構成されているのか
- 9つの構成要素
・ パソコン
・ サービスデスク など
- 他部署との協働が必要
・ 第2章
- 2003年時点における19のラーニング・コモンズの長所・短所を調べた
- 図書館がラーニング・コモンズを通じて教育方法の変化にどう対応していくか
・ 共同学習に変わってきている
・ 第3章
- 今後、ラーニング・コモンズをどのようにして発展させていくか
・ 第4章
- インフォメーション・コモンズとラーニング・コモンズの違い
・ インフォメーション・コモンズ:学びを支える
・ ラーニング・コモンズ:学びを作る
・ 第5章
- ラーニング・コモンズの考え方がどう発展してきたか
- 今後はどう発展していくべきか
・ 学部生だけではなく、院生・教員にもサービスを提供 など
・ 第6章
- 新しい世代との関わり
・ ネットでは当たり前のサービスが図書館にはない
・ 図書館は利用者の変化にどのくらい対応していくべきか
・ 第7章
- その空間に何があるかではなく、何が起こるべきか
・ 仮想空間ではなく実際の建物である意味
・ 学ぶ時間を増やし、生産性向上のための空間をデザインする
・ 単独学習から共同学習のどこに焦点をあてて設計するか
・ 教室外の学生・教員の交流をどう推進するか
・ 教育の質を高めるために何をするか
・ 第8章
- インフォメーション・コモンズは情報の提供ではなく、学びの場を提供する
・ 図書館を超えるモデル
・ 図書館以外にも設置されている
・ インフォメーション・コモンズ計画のためのチェックリスト
・ 第9章
- 大規模研究大学のインフォメーション・コモンズの成功事例
・ 情報部門との連携が必要
- 各種アカウントの統合
- 共同のサービスデスク
・ 第10章
- インフォメーション・コモンズ、ラーニング・コモンズでのレファレンスサービスの現状と将来の動向を調査
- 結果
・ どのようなサービスをするかについての考え方が変わった
・ 騒がしくなった
・ 今後の維持費の問題が出てきた
・ 第1~10章を踏まえて、日本のラーニング・コモンズを考えるときの課題
- 図書館と情報部門との連携
- 大学の方針を図書館のサービスでどのように具体化するか
- レファレンスデスクは今後も必要か
- 学生・学び方の変化にどう対応するか
- ICT機器の予算確保と維持
- ラーニング・コモンズに配置するスタッフの確保と養成
○第1章
- スペースに何を入れようかではなく、そこで何が行われて、それをどう支援するかが大切
- ラーニング・コモンズの構成要素
・ 資料を広げられる広さ
・ 机の配置・形
・ 共同学習スペース
・ 十分な広さ
・ 形式ばらない雰囲気
・ 可動式の机
・ テクノロジー支援センター
・ 学内の学生支援組織と連携
- レポートの書き方、学生相談、学習相談
・ その他
- 飲食ができることは意外と大切
・ 休憩、交流
○第2章
- 新しい情報技術の利用が増えることで図書館の機能・物理的な意味が変わってきた
- インフォメーション・コモンズの定義
・ 「統合デジタル環境下で作業スペースとサービス提供を組織するためにとくに設計された新しいタイプの物理的施設」
・ 「研究のための電子情報資源と熟練した技術スタッフがメンテナンスする製作物を提供するために設計された特定の場所」
- インフォメーション・コモンズの利点
・ 学生は1つの場所で調べ、支援を受け、課題を仕上げることができる
- インフォメーション・コモンズの課題
・ 訓練を受けたスタッフが必要
・ 機器の更新費用
- 19のインフォメーション・コモンズの概要、URL、文献を紹介
- インフォメーション・コモンズの計画・準備について資料を公開している大学がある
・ これからインフォメーション・コモンズを作る大学にとって参考になる
- インフォメーション・コモンズの利害関係者などの一覧を公開している大学がある
・ それぞれに対して何を伝えればよいかがまとめられている
- 資金をどこから得るかについては、各大学に共通のパターンはない
・ 規模・機関によって様々
- インフォメーション・コモンズを評価するために、新しい方法が必要
・ 様々な特徴が含まれているので画一的な評価が難しい
・ しかし、利用者に価値を示し、資金を獲得するためには評価が必要
- インフォメーション・コモンズの評価報告書がいくつか公開されている
・ シンクライアントは好まれなかった
- 保存媒体が使えないので不便
・ 目的ではない使い方がされていた
- インフォメーション・コモンズがうまくいくかは学生・職員・スタッフの支援を受けられるかが重要
・ 目的が承認され、資金を得るだけではうまくいかない
・ 学生・教員に何ができるところなのかを説明
・ 授業に組み入れてもらう
・ コストの問題があるので、スタッフと学生アルバイトを組み合わせているところが多い
・ 院生・訓練された学部生は交代要員を見つけるのが難しいという問題がある
○第3章
- インフォメーション・コモンズとラーニング・コモンズの違い
・ インフォメーション・コモンズ
- 利用者を知識探索で支援
・ ラーニング・コモンズ
- 利用者を知識創造で支援
- ラーニング・コモンズを作り、実施し、維持するためにはお金がかかる
・ そのため利用者がどのくらい使っていて、何を学んでいるのかを説明する責任がある
- 図書館員の役割が変わる
・ これまで行ってきた情報リテラシー支援だけではなくなる
・ プロジェクトの責任も出てくる
○第4章
- インフォメーション・コモンズとラーニング・コモンズの違い
・ インフォメーション・コモンズ
- 機関の使命を支援する
・ ラーニング・コモンズ
- 機関の使命を制定する
・ 図書館だけではラーニング・コモンズを作ることはできない
・ 使命を制定する部署と連携する必要がある
- 何を入れようかではなく、何が起きるかを考えるべき
○第5章
- インフォメーション・コモンズが登場するまでの歴史
・ テクノロジーが変化した
- 電子化、WEB化
・ レファレンス支援とテクノロジー支援の境界が曖昧になった
・ 図書館でなくても情報にアクセスできるようになった
・ 図書館の利用者が減った
・ 図書館は対応を考えた
- 1993年の図書館の会議
・ サービスデスクの統合(ワンストップサービス)
・ 図書館員から利用者に働きかける
・ サービスを作る段階から利用者が関わる など
- 1990年代
・ 「場所としての図書館」運動
・ 図書館は個人の研究のために静かな場所であるべき、という考えを放棄した
・ カフェがある、飲食ができるなどの環境を導入した
- Beagle(1999)
・ インフォメーション・コモンズについて言うときは[オンライン環境]と[ワークスペースとサービスの提供のための新しい種類の施設]の両方を説明すべき
- 北米研究図書館協会
・ ほとんどのインフォメーション・コモンズが持つ特徴
- 調査とコンピューター利用の両方ができる
- ワンストップサービスがある
- 図書館員・コンピューターの専門家などの配置
- 2006年の状況
・ 図書館と各サービス部署を連携させた場所になっている
- ライティングセンター、キャリアセンター、PC作業室など
- インフォメーション・コモンズは今後どうしていくべきか
・ 今は学部生が対象になっているが、院生・教員へのサービスをどうするか
・ 他部署・企業・他の図書館との連携をどうするか
・ インフォメーション・コモンズと図書館のWEBサイトとの関係をどうするか
・ デジタルではない資料をどうするか
・ テクノロジーを重視し過ぎていないか
・ レファレンスサービスをどう変えるか
○第7章
- どんな設備を入れるかではなく、どんな学びが生じてほしいかを考えるべき
- 作ったスペースを継続していけるか
- 高等教育では建築デザインが学びに影響するという議論をしてこなかったが、影響はある
- 場を提供するにあたり考えるとよいこと
・ 学ぶ時間が増え、生産性の高い学びになるためのデザイン
- 学びに必要なものがすぐ手に入る
- 快適(飲食可能、音楽が聴ける、くつろげる、休憩できる)
- 適度な静けさ(ある程度の雑音・活動がある、退屈しない、眠くならない)
・ 単独学習から共同学習のどこに焦点をあてるか
- 個別学習・グループ学習に加えて、並んだ学習(同じ場所にいるが一緒に学習するわけではない)
・ 「知識」がどういうものか、どこ・誰から得るか
・ 学生と教員が教室の外で交流するように設計するか
- 教室にいるときとは違う役割・関係を作る
○第8章
- インフォメーション・コモンズによって、そのスペースに来る学生が増える
・ それが1つの存在理由
・ その次の話として、来た学生と一緒に何をするか
- 情報の検索と、それを使った論文・プレゼンテーションなどの作成が1つの場所でできる
・ 多くの図書館は情報の検索まで
- 共同作業ができる
- テクノロジー担当者を配置する
- 他部署のサービスを同じスペースに入れる
- 授業以外はいつもそのスペースにいるという学生の例
- 学内に宣伝する
- 授業と結び付ける
- インフォメーション・コモンズの目標は柔軟に変更する
- インフォメーション・コモンズの設計段階で利用者の声を聞いた例は少ない
- 味気ない外観が多いが、建築家・デザイナーの予算を入れるべき
- インフォメーション・コモンズ計画の流れ
・ 学習に関連したビジョンを設定する
・ 要求アセスメントを実施する
・ 目標を設定する
・ アセスメント計画を設計する
・ 適切なパートナーを決定する
・ 資源を定義し、獲得する
・ 場所を決定する
・ 利用者が行えることが何であればよいかを定義する
・ 提供するニーズを決定する
・ フロア・プランを作成する
・ テクノロジーを計画する
・ 家具を選ぶ
- 計画の担当者が確認すべきこと
・ インフォメーション・コモンズの目的は何か
・ 教員・学生のどのようなニーズに取り組むか
・ どのようなプログラムを整えるか
・ どの部署と連携するか
・ どのようなハード・ソフトが必要か、どのように配置するか
・ どのような担当者が必要か
・ どのように成果を測定するか など
○第9章
- インフォメーション・コモンズになってレファレンスサービスがどう変わっていったのか
○第10章
- 図書館・図書館員がラーニング・コモンズでのレファレンスをどう考えているかを調査
- 147件の回答のうち、大学図書館の137件を分析
- 従来の図書館のサービスに加えてテクノロジーの支援、グループ学習への対応が必要
- デスクには図書館員の他に、学生・テクノロジー担当者などの配置が必要
- ラーニング・コモンズの図書館員はテクノロジーのスキル、コミュニケーションスキルが必要
- 成功したこと
・ 人の出入りが増えた
- 課題
・ 騒音が増えた
・ 図書館員の理解を得ることが難しい
・ 他部署との連携が難しい
・ テクノロジーに対応することに不安がある