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三宅なほみ・齊藤萌木・飯窪真也・利根川太郎(2011).学習者中心型授業へのアプローチ:知識構成型ジグソー法を軸に 東京大学大学院教育学研究科紀要,51,441-458.

公開日:2013年5月13日 最終更新日:2013年12月6日

概要

「人が学ぶ仕組み」を扱う学習科学の知見を活かし[生徒が潜在的に持っている学習能力]を引き出すように授業をデザインする。デザインの方法として、学習者同士が対話をする中で理解を深めていく「知識構成型ジグソー法」を中心に紹介する。知識構成型ジグソー法では、①課題をいくつかの部品に分け、②生徒はそれぞれ自分が担当する部品を理解した上で、③他の生徒に説明する。それらの活動を通して[相手への説明]と[相手の説明の解釈]を両方経験することになり、課題についての理解が深まっていく。その理解の過程を詳しく観察すると、見た目には生徒たちが一緒に考えているようでも、実際は各自が自分なりの納得の仕方をしていることがわかる。

読もうと思った理由・感想

「学び」がどのように生じているのか、仕組みを知りたいと思ったからです。

大学では学生さんの学びを支援する取り組みがいろいろと行われています。その取り組みをよりよいものにしていくときに、いきなり活動を考え始めるのではなく、支援の対象となる学びがどのように生じるのかを理解することが先ではないかと思いました。

また、個人的な思いつきとして、学びを支援する取り組みを考えるときに[学ぶ仕組み][学生さんの期待・不安][先生の期待・不安]を組み合わせるとよいのではと思っています。その組み合わせの中のパーツとして[学びの仕組み]を知りたいという気持ちもあり、読むことにしました。

読んだ感想は「学内の取り組みに使えそう」です。この文献で対象となっているのは学生ではなく生徒ですが、[説明と解釈を両方経験する中で理解を深める]という方法は年齢に関係なく応用できそうです。

また、先生がいきなり知識として教えるのではなく、学習者が活動を行いながら知識を体感していくという方法は、大学での学びを考えるときに大きな動きとなっている「アクティブラーニング」の観点からも有効だと思います。

今後、どのように学びを支援するかを考えていくときには、今回知ることができた[学ぶ仕組み]に加えて、[学生さんの期待・不安]と[先生の期待・不安]を組み合わせて具体的な形にしていきたいと考えています。また、運用を考えて行くときには[職員の期待・不安]も大切になりそうです。

詳細

※原文がPDFで公開されています[PDF]。
 ○はじめに
   - 学習者コミュニティ
     ・ 教育改善に関心を持って学習支援に実践的に関わる様々な人たちの集まり
     ・ 教員・研究者・教育委員会関係者・一般社会人など
   - 学習科学
     ・ 人の賢さが発現する仕組みについての知見を明らかにする
     ・ 授業改善に活かす実践実証型の研究が積み重ねられている(Sawyer, 2006; 三宅,2003)
   - 本論では持続的な授業改善を可能にするためにはどのような評価が有効かに焦点を当てて筆者らの活動を振り返る
     ・ 検討の観点
       - 理念:実践が立脚する「人はいかに学ぶか」についての考え方はどのようなものか
         ・ プロジェクトの最終ゴールをはっきりさせる
       - 学習活動:理念はどのような学習活動によって実現されると期待されているのか
         ・ 授業デザインの構成要素(理念の実現のために具体的には学習者がいつどのような活動をするか)を明らかにする
       - 評価:活動から生まれる成果、また活動そのものをどう評価するか
         ・ 実践の様々な側面を様々なインターバルで評価する
         ・ 実践実証研究全体のゴールを評価する
         ・ 1回ごとの授業・取り組みについても評価する(「今ここ」の授業の手応えを次に活かす)
       - 持続性:1つの実践が次の実践を生み出す仕組みはどのようなものか
         ・ 成果を次の研究・次の年度の授業計画にどう活かすか
         ・ 1つの授業が終わったら次に何をするかをどのように考えるか
         ・ 明示的な仕掛けがあってよい
   - 学習科学での[現場を扱う実践実証型研究]の特徴
     ・ 人が潜在的に持つと考えられる認知能力のうち学習にとって大切と考えられる能力を顕在化させて支援する
 ○海外の実践実証型研究例から
   - 学習につながる能力を潜在的に持っていたとしても、それを自覚して活用できるとは限らない
   - ここで紹介する先行研究が支援の対象にしている潜在的な能力
     ・ 問題解決能力
       - 日常的な出来事の中に「解くべき問題」を見出す
       - 例:[トマトの収穫が重労働だ]で終わらせず[人手をかけないためにはどうしたらよいか]→[機械で収穫できないか]→[なぜ機械で摘み取りにくいのか]と考える
     ・ 統合する能力
       - あるテーマについて得られた様々な断片的な考えを統合する
     ・ 自分の考えを成長させる能力
       - ものを書くことによって成長させる
   - 日常遭遇する問題は問題の形をしていない
     ・ 何が問題なのか、どうすれば解けるのかを考えないといけない
     ・ 解き方・答えは多様にあるので善し悪しの判断が必要
   - 子どもたちが学校で取り組む課題の特徴(Bransfordら)
     ・ 何が問題なのかを見極める必要がある
     ・ 解く方法が多数ある
     ・ 解を出すのに必要な情報が場面に埋め込まれていて学習者自身が探し出さなくてはならない
     ・ 数学的な概念・言葉遣い・計算方法などが繰り返し使われる中で定着する
     ・ 与えられた課題を超えて、定着した数学的概念を活用する発展的な課題が出される
   - The Jasper Project
     ・ 主に教育困難校の生徒を対象にして算数・数学の問題解決能力を育成する目的で始められた
     ・ 教材にはドラマ仕立てのビデオが多く使われる
     ・ ※橋本の注:<参考>鈴木克明(1995).教室学習文脈へのリアリティ付与について:ジャスパープロジェクトを例に 教育メディア研究,2(1),13-27.
      (http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ksuzuki/resume/journals/1995b.html
     ・ 現実社会にありそうな場面が使われる
   - WISE(Web-based Inquiry Science Envvironment)
     ・ Webで教材を公開(http://wise.berkeley.edu/webapp/
     ・ 現実社会でまだ答えの出ていない科学的課題を扱う
       - 環境問題・遺伝子組み換え・マラリア撲滅のためのDDT使用など
     ・ 「科学」の定義
       - 対立する様々な考え方に対して
       - 断片的ではあっても妥当性・関連性の高い情報を集め
       - 実験や調査によって真偽を協調的に判断し
       - 自分なりに取るべき立場と根拠をはっきりさせる
       - 日常的な課題
     ・ 学習者は取り組みの中で自分なりの答えを出す
       - ペアになって数週間かけて課題に取り組む
       - 断片的で多様な知識を統合する
     ・ 単なる学校の課題に終わらせないために専門家集団との議論の機会を用意する
     ・ 小~高校レベルの科学的理解を広く支援する授業を多く生み出している
     ・ 評価
       - 標準テストの成績も考慮に入れている
     ・ 生徒同士の話し合いにかける時間を十分に取ることは大切(Clark & Linn, 2003)
       - 選択肢問題は話し合いの時間を減らしても正解率が落ちなかった
       - しかし選択理由の記述の質は話し合いの時間が短くなるほど落ちた
   - Knowledge Forum
     ・ 学習者中心主義のプロジェクト
     ・ [書きながら思考する]という仕組みを[学習者が自ら知識を積み上げていく能力]と見なして支援する
     ・ 自分の考えについて書く機会を増やす
     ・ 自分・仲間が書いたものについて「書き加える」「書きなおす」「内容を確認する」「まとめる」などの作業をする
       - その作業がしやすいIT環境・活動の仕組みを提供する
     ・ 学習成果を次の学習に結びつけること(knowledge building)を目標にする
       - [具体的な特定の何か]ができることを表立っては評価しない
     ・ コミュニティの継続と発展のために対面で定期的に話し合う場を設ける必要がある
   - ここまで紹介してきた研究で行われていること
     ・ 単位を小さくして簡単な「一次」分析を頻繁に行う
     ・ その結果を次の授業に活かして学習コミュニティに提供する
 ○連携の理念とその授業への展開、「知識構成型ジグソー法」による授業の実際と評価
   - 話し合いで学びが進む仕組み
     ・ 建設的相互作用論
       - 複数の人の異なったアイデアが課題解決の場で1つの答えに収斂する
       - 各自が自分なりに問題を理解する
         ・ 表向きは2人が一緒に考えているように見える
         ・ 相手のアイデアも利用して考える
         ・ 最終的には自分ひとりの納得を得て満足する
       - 相手が説明しているときは、その過程を解釈・評価するモニターの役割をする
         ・ 説明する役割と交代しながら視野を広げて考えを統合する
         ・ その中で納得できる解を探す
       - 説明しても自分が思っていたほど納得してくれない
         ・ 説明する中で自分の考えの不整合を見つけることになる
       - 相手の考えていることを自分の視点から切り分ける
         ・ その中で自分にとって役に立つところを取り出して自分の課題遂行に利用する
       - 上記のようなプロセスが教室で生じるためにはどうすればよいかを考えることが大切
         ・ ただし実際に何が起きるかは授業をしてみないとわからない
         ・ 授業で得たデータを次の授業をよくするために活かしていく
     ・ 知識構成型ジグソー法
       - 個人内で生じる知識の統合を明示的に支援する
       - 行う内容
         ・ その授業で答えを出したい問いを立てる
         ・ その答えを出すために必要な部品を考える
         ・ 各部品の担当を決め、自分の担当について理解する(エキスパート活動)
         ・ 各担当の内容を統合して答えを出す(ジグソー活動)
         ・ 上記を複数のグループで行い各グループの答えを発表し合う+それぞれ自分にとって納得がいく理解をする(クロストーク活動)
       - 授業の前後で問いについての答えを書いてもらう
         ・ 授業の狙いを完全に書けた割合:授業前 > 授業後(この授業方法の効果を表している)
         ・ 自身の解答を事前事後で比較して成長を実感する機会になる
         ・ 先生にとっては授業の狙いが達成されたかを評価する資料になる
       - 学習指導要領でいう「習得と活用」を短時間でとにかく1回行うことになる
         ・ 習得:エキスパート活動
         ・ 活用:ジグソー活動・クロストーク活動
       - 自分の解が他人と違うことが不完全感・未到達感を生み、それが次の学びを引き起こす
       - 実際に行った先生の感想
         ・ 「あの課題をあのメンバーがあそこまで話し合って答えを出すとは思わなかった」が多い
 ○学習コミュニティの発展と持続に向けて
   - 「大学発教育支援コンソーシアム推進機構」(http://coref.u-tokyo.ac.jp/

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