ホーム → IRなどについての文献メモ → 溝上慎一(2007).アクティブ・ラーニング導入の実践的課題.
公開日:2012年11月15日 最終更新日:2013年12月6日
アクティブ・ラーニングが行われているのはどのような分野の授業かを調べた。アクティブ・ラーニングは授業形態の観点から講義型と演習型に分類できる。演習型はさらに課題探究型と課題解決型に分類できる。これらの分類を使い、アクティブ・ラーニングが行われている授業報告数を集計した。
また、アクティブ・ラーニングを導入するときに考えないといけないことは何かを検討した。アクティブ・ラーニングを導入するときには学習プロセスと学習の質を高める工夫について考える必要がある。
勤務先の京都光華女子大学が文部科学省「私立大学教育研究活性化設備整備事業」(平成24年度)に採択されました。タイトルは「アクティブラーニング促進と主体的な学びを支援する学習環境整備」です。アクティブ・ラーニングについては、事業に申請する際に少し調べていましたが、採択されたのをきっかけに、もう少し詳しく調べることにしました。調べるにあたって、アクティブ・ラーニングの事例報告を個別に調べていってもよいのですが、その前にアクティブ・ラーニングにはどのような種類があるのかを知りたいと考えました。
今後、個別の事例報告を調べるときにアクティブ・ラーニングの分類が役に立ちそうです。また京都光華女子大学には看護学科があるので、看護の分野でアクティブ・ラーニングの事例報告が多いというのが興味深かったです。また、多くの分野で初年次教育に活かしているという点も印象に残りました。
※原文がPDFで公開されています[PDF]。
○はじめに
- 子ども・若者が人生形成をするために必要な知識をどこから得るかについての変化
・ コミュニティから
・ 学校から
- 産業革命によって必要な知識がコミュニティの範囲を超えた
・ 学校よりも広い範囲から(=ポストモダン社会)
- インターネット、各種メディア
- 本稿では、このような状況の中での教育をポストモダン教育と呼ぶ
- ポストモダン教育ではアクティブ・ラーニングが重要
- そこでアクティブ・ラーニングを導入するときの課題にどのようなものがあるかを調べる
○アクティブ・ラーニングの実践的課題の抽出
- 抽出の目的
・ どのような授業・カリキュラムでアクティブ・ラーニングが行われているのか
・ 導入するときの課題は何か
- 抽出の方法
・ CiNiiを使った
・ 4段階で抽出した
1.2005年、タイトルに特定のキーワードを含むもの
・ 「大学、教育」(1,327件)
・ 「大学、授業」(168件)
・ 「大学、カリキュラム」(57件)
2.タイトルを見て関係があると判断したもの(557本)
・ 実際に入手できたものは297本
3.内容を確認して関係があると判断したもの(57本)
4.1~3を踏まえて追加で調べた方がよいと考えられたキーワードで再度1~3を行った
・ 15本が追加され、最終的な調査対象は合計の72本
- 結果
<学問分野・授業科目分類別の動向>(表1)
・ 上位4分野(単位:件数)(橋本の注:本サイトでは上位4分以降の7分野(13本)は省略)
- 18 医歯薬
・ 11 看護
・ 2 歯学
・ 2 医学一般
・ 1 初年次・導入
・ 1 薬学
・ 1理学療法
- 17 教育学
・ 4 教職
・ 3 生活科
・ 3 児童教育
・ 2 初年次・導入
・ 1 社会科
・ 1 理科
・ 1 体育
・ 1 家庭科
・ 1 美術
- 13 工学
・ 4 工学一般
・ 3 電気・電子
・ 2 初年次・導入
・ 2 情報
・ 1 機械
・ 1 化学
- 11 一般教育/教養
・ 3 英語
・ 3 総合
・ 3 情報・メディア
・ 1 初年次・導入
・ 1 基礎物理
・ 上記は全国の取り組みをそのまま反映したものではないが、著者の印象にかなり合致する
<アクティブ・ラーニングの形態>
・ 授業形態別(両方の型を含む場合はウェイトにより分類)
- 講義型授業:教員の話が中心
- 演習型授業:学生の活動が中心
・ 課題探求型
- アウトプット型の授業
- 自由テーマ(専門学部の内容と関連させることが多い)で調べる学習
- 最後の結論は学生の学習内容に依存する
・ 課題解決型
- アウトカム型の授業
- あらかじめ大まかな学習内容が設定されている
- 工学系、医学系学部のPBLが代表的
※ 伝統的な演習型授業(輪読、文献購読)でのアクティブ・ラーニングはほとんど報告されていないが課題探求型/解決型に見劣りするわけではない
・ 上記の授業形態を学問分野別にまとめた表(表2)
・ 講義型授業におけるアクティブ・ラーニングで検討されていること(表3)
- 医歯薬(18本):課題解決型が最も多い(11本)
- 教育学(17本):課題探求型が最も多い(7本)
- 工学(13本):課題探求型が最も多い(8本)
- 一般教育/教養(11本):課題探求型が最も多い(6本)
・ 演習型授業におけるアクティブ・ラーニングで検討されていること(表4)
- 橋本の注:表1~4の詳細は原文をご参照ください
・ 報告数は多くないが講義型授業にもアクティブ・ラーニングが導入されている
- ポストモダン教育が注目される中、伝統的な知識伝達型の授業の改善・開発は積極的に行われていることに注意が必要
・ 予想していたより広い範囲で課題解決型のアクティブ・ラーニングが行われている
・ アクティブ・ラーニングを取り入れる授業で検討することは2つに分けられる
- 学習プロセス
- 学習の質を高める工夫
・ 他者の視点強化
・ 授業外サポート
・ カリキュラム・サポート
・ アクティブ・ラーニングの質向上に関係すること
- 他の授業科目との連携
- カリキュラムの組織化
○学習ベースのカリキュラム化
- 演習型授業で学生にしっかりアクティブ・ラーニングをさせるためには学習スキルが必要
・ 情報収集、発表、議論の仕方
・ レポートの書き方
・ 基本的な技能(工学系の溶接など)
・ 問題発見・発想法
・ 思考の整理法
・ 論・ストーリ構成の方法 など
- 学習スキルについては、一授業内で力を付けることができる
- ただし内容という観点で学習の質を高めようとすると一授業、一教員だけでは難しい
- 一授業内でのフィードバックだけではなく、カリキュラムにもフィードバックすべき
- 知識習得の学習とアクティブ・ラーニングが別物という学習観が根強く残っている