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溝上智恵子・大学図書館研究グループ(2019).データリテラシーの論点整理 図書館界,71(2),129-134.

公開日:2020年2月5日 

原文

[PDF]データリテラシーの論点整理

概要

データリテラシーの定義について、文献調査を行い、論点を整理した。

リテラシーとは「読み書き能力」と訳される。日本語の「読み書き算盤」にあたる。歴史的に見ると、「素養/教養」と「読み書き能力」の2つの意味があったところに、機能的識字という意味も付与されてきた経緯がある。さらに現在では、様々なリテラシー論が展開され、意味はますます多義的になっている。

データリテラシーは比較的新しい用語であり、まだ揺籃期にあると言える。主要な英語文献をもとに概観すると、データを対象にしたリテラシーという点は各定義に共通している。さらに、データを批判的に評価することや、論理的に使うことをデータリテラシーの要素として含める論文が多い。データリテラシーには2つの側面がある。1つは「データ消費者としてのデータリテラシー」、もう1つは「データ創出者としてのデータリテラシー」。

データリテラシーと同種の概念として、情報リテラシーがある。情報リテラシーでは、情報の活用法のみを獲得するのではなく、同時に専門知識や関連する研究方法も獲得することが目指されている。データリテラシーと情報リテラシーは同じ側面を持つが、2000年代半ば以降はデータリテラシーを情報リテラシーから分離して議論する傾向が見られる。

詳細

 ○ はじめに
   - データリテラシーの定義について、文献調査と論点整理

 ○ リテラシー(literacy)
   - リテラシーとは「読み書き能力」と訳される
     ・ 日本語の「読み書き算盤」にあたる
     ・ 文字・文章を読むこと、内容を理解して文章を書くこと、それらができる能力
   - 日本で初めて行われた大規模な読み書き能力の調査(1948年)
     ・ 「社会生活を正常に営むのにどうしても必要な最低限度の読み書く能力」としている
   - 語源
     ・ ラテン語のlitera(文字)
       - 派生したliterateには「教養がある」という意味が付与された
       - そこからliteracyが派生したと言われる
   - リテラシーに現代的な意味が加わった
     ・ 1883年の"New England Education Journal"(マサチューセッツ州教育委員会発行)
       - 学校教育で教授される「読み書き能力」という意味で用いられていたことが確認されている
       - この時代(19世紀後半)の背景は公教育が制度化された時代
       - リテラシーが教育概念として登場してきた
     ・ 1930年代のアメリカ
       - 「機能的識字」という概念が登場
         ・ 社会的自立に必要な基礎教養という意味合いが含まれる
         ・ 1956年にWilliam GrayがUNESCOで提唱したことで正解的に広まっていった
           - UNESCOが読み書き能力に加えて定義したこと
             ・ 大人になって経済生活を十全に営むための職業的、技術的な知識
         ・ 近年のOECDの国際成人力調査(PIAAC)での定義
           - 「社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と潜在能力を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力」
     ・ 歴史的に見たときのリテラシー
       - 「素養/教養」と「読み書き能力」の2つの意味がある
       - その後、機能的識字という意味も付与されてきた経緯がある
       - さらに現在では、様々なリテラシー論が展開され、意味はますます多義的になっている
         ・ 情報リテラシー、ヘルスリテラシー、PISAリテラシーなど
       - それらの点を踏まえた上で、データリテラシーにはどのような定義が付されているかを検討する

 ○ データリテラシーの定義
   - データベースの定義から
     ・ CiNii Articlesを用いて「データリテラシ」をone wordとしてフリーワードで検索
       - 2018年11月26日現在で、35件が抽出された
         ・ そのうち、2016~2018年の間に公表されたものは22件
         ・ 最も早い論文例は、1996年の田窪美葉ら「組織学習を考慮した情報システムの活用」
           - 本文において「データリテラシー」が言及されていた
       - 2001年には柴田里程『データリテラシー』という書籍が刊行された
     ・ 同様の作業を「情報データリテラシ」について実施
       - 2,317件が抽出された
       - 情報リテラシーと比べると、日本語のデータリテラシーはまだ定着していると言い難い
     ・ ProQuest Centralの「学術誌」対象に「data literacy」をone wordとして検索
       - 2018年11月26日現在で、447レコードが抽出された
         ・ 最も早い論文例は、1988年のNaomi Karten「Executive computing: Upload, download」
           - 本文中で「data literacy」が言及されていた
       - ProQuest Centralの「学術誌」では、2008年9レコード以降、関連論文数が急激な伸びを示していた
         ・ 2017年は104レコード
       - それらの結果から、データリテラシーは比較的新しい用語であり、他の単語との組み合わせも含めて、まだ揺籃期にあると言える
   - データリテラシーの定義
     ・ 揺籃期にあるとはいえ、どのように定義されてきたのか
     ・ 主要な英語文献をもとに概観した結果を公表順にまとめた
       - 「表1 データリテラシーの定義」
         ・ 文字通り、データを対象にしたリテラシーという点は各定義に共通している
         ・ さらに、データを批判的に評価することや、論理的に使うことをデータリテラシーの要素として含める論文が多かった
         ・ シンプルな定義
           - データを読み、理解する能力(Wu, 2009)
           - 利用可能なデータを聡明に使うスキル(Twidale et al., 2013)
         ・ 具体的なスキルに言及する定義
           - 情報リテラシーの要素として、データにアクセスし、解釈し、批判的に評価し、管理し、処理し、倫理的に使うことができる能力(Calzada Prad & Marzal Garcia-Quismondo, 2013)
           - 大量の量的情報を処理し、ソートし、フィルターする能力で、大量の量的情報を創出して統合するために、どのように検索し、フィルターし、処理するかについてわかること(Koltay, 2016)
     ・ 論文がデータリテラシーの獲得者として想定している対象者に着目
       - 明示されていた対象者
         ・ 中等学校生徒、大学生、大学図書館職員
           - 大学生を対象にしたデータリテラシー
             ・ データ管理能力が含まれていることが多かった
           - 中等学校生徒を対象にしたデータリテラシー
             ・ データ管理の側面は弱く、データ消費者としての側面に焦点があてられている
           - つまり、データリテラシーには2つの側面がある
             ・ 「データ消費者としてのデータリテラシー」
             ・ 「データ創出者としてのデータリテラシー」
     ・ 情報リテラシーとデータリテラシーの異同を整理する必要がある
       - Calzada Pradらの定義では、データリテラシーを情報リテラシーの要素として位置付けている

 ○ 考察:データリテラシー、情報リテラシー、専門分野の知識
   - 今回の文献調査で多かった意見
     ・ データリテラシーと情報リテラシーの両者は同種の概念(Koltay, 2015, p.411)
   - その背景
     ・ 両者が密接に関連している
     ・ ACRLの情報リテラシー・スタンダード等を参照した議論が多い
       - 図書館情報学関係者がデータリテラシーについて議論をしている
   - その結果、データリテラシーの定義に生じていること
     ・ オリジナルのデータをどのように扱うのかといった視点が弱い
     ・ データを扱う際の一般的注意や既存のデータの利用に重点が置かれがち
   - Huntの指摘
     ・ データリテラシーと情報リテラシーは同じ側面を持つ
       - データリテラシーは情報リテラシーから構成要素を取り込んでいる
       - 事前知識や事前スキルの上に獲得される
     ・ しかし、実際の活用に際しては異なる
   - そうした点を踏まえ、2000年代半ば以降はデータリテラシーを情報リテラシーから分離して議論する傾向が見られる
   - 情報リテラシーは専門分野の文脈に依存する(2015年に公表されたACRLのFramework for Information Literacy for Higher Education
     ・ 情報の活用法のみを獲得するのではなく、同時に専門知識や関連する研究方法も獲得することが目指されている
   - 小田(2016)
     ・ 2000年に公表された情報リテラシー・スタンダード以降のアメリカの状況
       - 「それぞれの状況(研究領域や活用の場など)に応じて、情報リテラシーの能力を展開して位置づけることが目指される」方向性にある
       - 情報リテラシーの形成プロセスの一般的なモデルや、汎用的・標準的な能力基準の提示は難しいと考えられるようになった
   - 小田の指摘はデータリテラシーについても同様
   - データリテラシー獲得の理由についてのMaybeeらの主張
     ・ 学生の事前知識の上に、データ利活用の新しい方法を獲得する
     ・ データ利活用を学ぶことは同時に学際領域を学ぶことである
     ・ データ利活用の新たな方法を学ぶと同時に自分の専門についても新たな発展を生み出す
   - 今後、データリテラシーの概念を独自概念として確立させるために必要なこと
     ・ 情報リテラシーのみならず、統計リテラシーとの異動も整理

 ○ まとめ:21世紀リテラシーとしてのデータリテラシー
   - データリテラシーは21世紀を生き抜くための重要かつ基本的なスキルの1つ(Ridsdale, 2015, p.9)
   - すべての人が一定レベルのデータリテラシーを持つことが不可欠
   - データリテラシーには2つの側面があり、データリテラシーを獲得する対象者によって強調点も異なることに注意すべき

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