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山田剛史(2004).過去-現在-未来にみられる青年の自己形成と可視化によるリフレクション効果:ライフヒストリーグラフによる青年理解の試み 青年心理学研究,16,15-35.

公開日:2013年2月8日 最終更新日:2013年12月6日

概要

青年心理を理解するために過去・現在・未来という全体的な視点から調査した。ライフヒストリーグラフ(過去・現在・未来をグラフ化)と質問紙(グラフを意味づけして振り返る)を使った。変化のパターンは[肯定的→肯定的]と[より肯定的な方向に変化]が多かった。現在の自分がどの位置(良い・中性・悪い)にいると思っているかという観点で分析すると、[良い]では、[将来の目標]と[現在の行動(勉強)]がつながっていると感じている記述が見られた。[中性]では、学業を否定的に捉えているが主に友人関係の良さで補っている様子が見られた。[悪い]では、学業を否定的に捉えていることに加えて、それを補う「はけ口」を持っていない様子が見られた。過去を現在の視点で再構成するときには他者が重要な要素になっている。

読もうと思った理由・感想

「ライフヒストリーグラフ」に興味を持ったことがきっかけです。舘野(2012)[1]で、学生の自己理解を促すツールとして使われていて存在を知りました。そこで、学内の取り組みに使えるのではないか、と考え読み始めました。
[1]舘野泰一(2012).大学教育とワークショップ 苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎(編)場づくりとしてのまなび 東京大学出版会 pp.197-219.

読んだ感想は「学内の取り組みに使えそう」です。本文献(山田, 2004)の考察にも「調査目的以外の文脈、例えば大学教育における自己理解を促すツールとしての利用可能性も考えられる」(p.31)と書かれています。また[将来と現在の学業とのつながり]と[人間関係]が[現在の自分をどう捉えるか]の大切な要素になっているというのも興味深いです。読んで得た知識・感想を踏まえて、まずは教職員内で小規模に試してみて、最終的には学生さんを対象にした取り組みに活かしてみようと考えています。

取り組みで期待される効果について、本文献では、これまでの人生のグラフ化+質問紙という調査を通して、自分の肯定的な側面に気づいたとする参加者が全体の約7割だったと報告されています。この[考えを可視化 → 内容を他者に語る → 振り返り]で学びが生じるという考えは、ワークショップ関連の文献でも示されています([2]~[9]など)。試してみる価値はありそうです。
[2]中野民夫(2001).ワークショップ:新しい学びと創造の場 岩波書店
[3]上田信行・中原淳(編著)(2013).プレイフル・ラーニング:ワークショップの源流と学びの未来 三省堂
[4]中原淳(2011).知がめぐり、人がつながる場のデザイン:働く大人が学び続ける"ラーニングバー"というしくみ 英治出版
[5]苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎(編)(2012).まなびを学ぶ 東京大学出版会
[6]苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎(編)(2012).場づくりとしてのまなび 東京大学出版会
[7]苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎(編)(2012).まなびほぐしのデザイン 東京大学出版会
[8]堀公俊・加藤彰(2008).ワークショップ・デザイン:知をつむぐ対話の場づくり 日本経済新聞出版社
[9]茂木一司(編集代表)・苅宿俊文・佐藤優香・上田信行・宮田義郎(編)(2010).協同と表現のワークショップ:学びのための環境のデザイン 東信堂

詳細

※原文がPDFで公開されています[PDF]。
 ○問題と目的
   - 青年心理を理解するために過去・現在・未来という全体的な視点から調査
     ・ これまでの研究は未来の視点からの理解が多い
     ・ 過去とは現在の視点で新たに書き換えられる動的なもの
   - 今回の調査が参加者の成長になるかも検証

 ○研究方法
   - ライフヒストリーグラフと質問紙の組み合わせ
     ・ 回想・可視化・意味づけ・全体を通した振り返り(リフレクション)で構成される
   - ライフヒストリーグラフ
     ・ 過去・現在・未来の自分をグラフにする
     ・ 縦軸が出来事の印象度(良い・中性・悪い)、横軸が時間
   - 質問紙
     ・ライフヒストリーグラフを意味づけする
     ・ 過去に対する質問
       - とくに重要だった出来事(最大4つまで選ぶ)
       - そのとき感じたこと
       - 今どう感じているか
     ・ 現在に対する質問
       - なぜその位置にいると思うのか
     ・ 未来に対する質問
       - なぜその位置になっていると思うのか
   - 対象は医療系専門学校生42名

 ○結果と考察
   - 変化のパターンは[肯定的→肯定的]と[より肯定的な方向に変化]で85%だった
     ・ [肯定的→肯定的]は24%
     ・ [より肯定的な方向に変化]は61%
       - [否定的→肯定的](26.6%)
         ・ 入試、次いで失恋に関するものが多い
       - [両価的→肯定的](18.2%)
         ・ 両価的:新たな世界へ踏み出す期待と不安が混在していると思われる
       - [否定的→両価的](16.2%)
         ・ 死別体験に関するものは全てここに含まれている
         ・ 出来事そのものへの評価は変化しないが、新たな意味が付与されている
   - 現在の位置に関する分析
     ・ 良い・中性・悪い付近の位置づけで3つに分類した
     ・ 全てに共通するカテゴリー:学業、生活満足(感)
     ・ [良い]の特徴
       - [将来の目標]と[現在の行動(勉強)]がつながっていると感じている
       - 自分と他者の関係を良好なものと考えている など
     ・ [中性]の特徴
       - 学業を否定的に捉えているが主に友人関係の良さで補っている
       - 日常生活は良くも悪くもなく、ほどほど
     ・ [悪い]の特徴
       - 学業を否定的に捉えていることに加えて、それを補う「はけ口」を持っていない
       - 日常生活に対して、漠然とした不安ではなく、はっきりとした不全感がある
   - 未来の位置に関する分析
     ・ 上昇型・平行型の2つに分類した(下降型は見られなかった)
     ・ 上昇型
       - 肯定的な出来事だけではなく、否定的な出来事も受け入れた上で、自分の成長に期待している
   - リフレクションに関する分析
     ・ グラフ作成を通して自己を理解し、未来につなげていく意識が見られた(19.4%)
     ・ ただし、自分のネガティブな側面に注意を向ける機会にもなり得る

 ○総合的考察
   - [肯定的→肯定的]
     ・ 肯定的な出来事が一種の原体験になっていると考えられる
   - [両価的→肯定的]
     ・ 否定的な出来事が時間の経過によって緩和され、肯定的評価が残ったと考えられる
       - 否定的な出来事は本人の意思とは無関係に降りかかったものが多い
   - 過去の出来事への意味づけの変化を規定する要因
     ・ 他者が最も重要
       - 他者との出会い、交流、言葉かけによって認識の再構成が促されたという例が多く見られた
       - これまでの自己(人生)を他者の支えを踏まえた形で受け入れている
     ・ 克服した経験
     ・ 時間
   - 自己形成を理解するためには未来への志向性だけでは不十分
   - 本研究の視点・アプローチは調査目的以外の文脈でも利用可能
     ・ 例えば、大学教育における自己理解を促すツール

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